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ミステリの祭典

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屍島
奇蹟鑑定人シリーズ

作家 霞流一
出版日1999年12月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2025/07/31 00:34登録)
本書は奇蹟鑑定人シリーズ2作目にして現時点でシリーズ最終作。奇蹟鑑定人の魚間岳士と天倉真喜郎が世間で起きた不可思議現象を科学的に解明するために全国を駆け回るシリーズである。

今回の舞台は瀬戸内海で赤穂の沖に浮かぶ鹿羽島である。戦国時代に瀬戸内海をのさばっていた水軍がこの島で1匹の毛並みの美しい雌鹿を生け捕られたときに大きな翼が生えた鹿が飛んできて雌鹿を取り戻したという伝説に由来しているという霞節溢れる設定である。

まず私にとっては馴染みの瀬戸内海だが、鹿に纏わる伝説が多いのは本書で初めて知った。菅原道真が海を渡る鹿の詩を詠んでいて、その伝説は厳島神社にも残っているとのこと。確かにあの島は鹿が多い。
更には牡蠣で有名な日生町の鹿久井島では漁民が鹿を食べていたことに名が由来していたり、姫路市にも我馬野では鹿狩りをしたが失敗して鹿が海を渡って逃げたという逸話、神戸市の兵庫区の夢野にも氏かに纏わる伝承があったり、更に兵庫の赤穂が舞台の1つとなっていることもあり、自分が住んでいる場所や知っている場所が多く出てくることもあっていつもよりも親近感が増した。

さてその2人が鹿羽島に赴いて解き明かそうとする奇蹟は鹿の頭の生えた樹が現れたというもの。しかもその鹿の頭は発見者が転倒して目を離した隙に消え失せてしまったという。
しかし物語はこの奇蹟の鑑定よりもその島に住む医者諸生博士こと諸生陽平がゲノム操作によって生み出したと云われる馬と鹿を合わせた馬鹿という怪物が逃げ出した後で起こる連続殺人事件の捜査へと発展する。

また霞氏のブログを読んでいる方は知っていると思うが、霞氏はいわゆる言葉遊びの達人である。従って本書にはそんな彼の遊び―駄洒落とも云う―が、散りばめられている。
気付いたもので挙げてみると天倉のことを40過ぎても本能のままに動く子供のようだとして本能児と魚間は呼ぶがこれはまさに織田信長が最期を遂げた本能寺から来ており、舞踊家の竜宮嬢も浦島太郎の竜宮城である。
また島の医者、諸生博士はウェルズの作品に登場する、自身の島で動物と人間を掛け合わせてミュータントを作っていたモロー博士に由来しており、アートファクトリー『24の畳』は小豆島を舞台にした壷井栄の小説『24の瞳』が元ネタである。その他にも色んな言葉遊びが含まれていると思っていいだろう。

たった220ページのボリュームながらこの物語のために盛り込まれたガジェットの数はかなり多い。しかもそれらを過不足なく配置し、ドミノ倒しのように全てが謎解きに寄与して、大団円を迎えるのだから、霞氏の本格ミステリの技量は実に高い。
厚いだけがいいわけではないという好例でもあるし、また島田荘司氏ばりの奇想に満ちている。

さてこの奇蹟鑑定人シリーズだが、この2作目以降書かれていない。
実は解説を読んで知ったのだが、本書の馬の首が樹から生えている奇蹟は1作目の最後に触れられていたのだった。そして本書の最後にも彼らが次に相対する奇蹟は屏風絵から抜け出した火を吹くニワトリ…。なんとも気になるではないか。

バカミスの匠として知られている霞氏だが、実は純粋な本格ミステリ作家としても有栖川氏や綾辻氏らビッグネームとは全く引けを取らない、いや寧ろこれだけ謎を拡げながらも簡潔に収まるべきところに収める実力はもっと評価されていいのではないか。
彼の著作数に比べて文庫化作品が少ないのが非常に気になるところだ。今後彼がブロックバスター的な作品で一躍有名になり、旧作の文庫化が進むことを大いに期待したい。

No.1 3点 kanamori
(2010/07/17 14:14登録)
奇蹟鑑定人・魚間岳士シリーズの第2弾。
動物尽しでタイトルを統一してきましたが、今回のシカはちょっと苦しい。
事件の不可解性とトリックの豪快さに欠け、やっつけ仕事の文庫オリジナル作品という感じです。

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