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ミステリの祭典

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乱歩と千畝:RAMPOとSEMPO

作家 青柳碧人
出版日2025年05月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 8点 人並由真
(2025/12/20 07:57登録)
(ネタバレなし)
 二日前に読了したが、なかなか感想が書けない。
 
 おおざっぱな物言いをしてしまえば、もちろん歴史ドキュメントでもなんでもなく、むしろ「忠臣蔵には中村主水が関わっていた」「桜田門外の変にも中村主水が関与していた」「中村主水が平賀源内と知り合いだった」(←もういいです)と同質の、歴史史実ものに見せかけた(?)それっぽいフィクションのお話エンターテインメントだが、それはともかくとして実に面白かった。

 乱歩と杉原千畝という、実際にはいくら何でも接点なんかねーだろ? と思える両人の関係性を、良い意味で最大限に強引に手繰り寄せ、相応の想像力と資料の読み込みで築き上げた本書。
 その中身は、大正~昭和中盤までの時代のオールスターものでもあり、そういう意味での興趣も尽きない。
 一番評価されるべきは虚実をまぜこぜにしながら作中人物たちの縦横自在な人間関係を組み上げた、作者の破格の構成力だろう。

 ほぼ全編が良かったが、一番グッと来た(死語)のは第7話の、あの人もあの人も……のくだりかな。山村正夫のあの本に通じるトキメキがある。本書のそこには万端な意味で歴史上の真実はないかもしれないけど、たぶん確実に戦後の本邦推理文壇での真理がある。島田一男も登場させてほしかった。
  
 この本に対するたぶん一番近い自分の感慨は、少年時代にベアリング=グールドの『ガス灯に浮かぶその生涯』を熱に浮かされるような思いで読みふけったあの時の気分。
 本書ももっと若い頃に読んでいたら、間違いなく殿堂入りしていたね。十~二十代の頃に出会っていたら、10点満点で10点だと思う。実際には読んでる間の熱狂で9点、二日経った今ではとにもかくにも頭が冷えて、8点の上だけど。

 で、さらに言うなら本書はおそらく完全に、良くも悪くもNHKの朝ドラの世界です。いやわたしゃ、朝ドラって『なつぞら』の東映動画(がモデルのアニメスタジオ)編以降しか、まともに観たことないんですが(汗・笑)。
 まあ、十中八九、その路線もしくは近しい場で、十年以内に実写ドラマ化されるとは思うのだ。

No.1 8点 HORNET
(2025/08/31 19:52登録)
 日本探偵小説の父・江戸川乱歩と、「命のビザ」で歴史的偉人となった杉原千畝。実は2人は、旧制愛知五中(現・瑞陵高校)を卒業し、早稲田大学に進学した同窓生。もし2人が、学生時代に出会い友人となっていたら――。そんな斬新で大胆な発想で描かれた、フィクションの歴史小説。

 実際の2人がどうであったかは置いといて、作中で描かれる2人の人物造形が面白い。ミステリ愛は人一倍、頭もよいが社会不適合な優柔不断男、乱歩。実直で使命感が強く、かつ人への慈愛に満ちている青年、千畝。若い二人が偶然に出会い、それぞれ数奇な運命に身を投じながら、要所要所で邂逅し、互いに影響し合っていく。よくこんな面白いストーリーを考えたものだと感心しながら、その魅力にぐいぐい読み進めてしまう。広田弘毅、松岡洋右、川島芳子といった戦時中の日本史、正史、清張、風太郎などの戦後ミステリ史をそれぞれ牽引したメンバーの登場も興趣を高め、あの「命のビザ」の場面は胸が熱くなる展開だった。
 ミステリではないことを差し引いても、高評価を付けたい一作。

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