(2025/02/13 19:07登録)
東京から三時間以上かかる夜鬼町は、辺鄙な田舎町である。人工は少ないが、町民たちは家族のように仲がいい。だが秋まつりの広場で起きた事件によって、全てが変わる。配られたお汁粉に農薬が混入されていたのだ。これにより、主人公の真壁仁美の母親が死んだ。仁美には、岸田修一郎と景浦涼香という幼馴染がいる。その修一郎の妹と涼香の弟妹も死んでしまった。無差別殺人課、被害者の誰かを狙ったのか。とんでもない事件に町は揺れ、人々は疑心暗鬼に陥る。修一郎引っ張られて仁美は犯人を見つけようと、町民たちに話を聞いて回る。四年前に起き、死人まで出た少女誘拐事件は、今回の件に関係あるのか。犯人像は二転三転し、町ではさらに騒動が続くのだった。本書のプロローグで、監獄実験に触れられている。看守役と囚人役を学生に演じさせることで、人がどうなるかを検証した心理実験だ。これがあるからだろうが、本書のテーマは「囚われる」ことだと感じられる。なぜなら町民たちは、物理的にも精神的にも囚われているからだ。誰が犯人か分からず、町民たちの不安は募る。そして少しでも怪しい人がいれば犯人と決めつけるのだ。疑いが晴れれば、また別の人を犯人と思い込む。夜鬼町で生きるしかない人々にとって、町そのものが監獄になってしまっているのである。一方で人々は、精神的にも囚われている。仕方がないとはいえ、視野狭窄となった人々の言動は、どんどんエスカレートしていく。中盤で意外な事実が明らかになるが、それさえも吞み込んで騒動は収まらない。人々の心が、暗い部分に囚われているからなのだ。その渦中で仁美は、何を思うのか。異様な迫力に満ちた終盤の謎解き場面を経て、明らかになった真相に驚かされた。それと一緒に示された希望に救われた。
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