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ミステリの祭典

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檜垣澤家の炎上

作家 永嶋恵美
出版日2024年07月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 5点 makomako
(2025/04/01 21:26登録)
重厚な作品ではあります。
細雪を思わせる時代と状況設定。まさに関東版細雪とでも言いたいところなのですが、いかんせん谷崎のような色っぽさと妖艶さがないのです。
その代わりといっては何ですが、殺人事件が起こり推理小説の要素がありますが、これがあんまりよろしくない。論理的な推理の要素が少なく、感覚的な推理で犯人を見つけ出してしまう。登場人物があまり好みのタイプではなく、ことに主人公が表向きには上品だが実は嘘つきで性悪の傾向。さらに殺人を犯した犯人はとんでもない性格が、突然明らかになる。
これが本格ものではじめから変な人間ばかり出てくるのならまだ納得できるのだが、上品を装ったお話の中に突然サイコパスみたいな人が出てくるとさすがに違和感があります。
良いところがたくさんあるのですが、私にはあまり心に響かず、長い小説を頑張って読んだといった感じでした。

No.1 9点 HORNET
(2025/01/12 22:00登録)
 大正時代、横濱で知らぬ者なき富豪一族、桧垣澤家。当主の妾の娘、高木かな子は母を亡くしこの家に引き取られる。商売の舵取りをする大奥様、スヱ、互いに美を競い合う三姉妹と、桧垣澤は女が主権を握る家だった。ある夜、婿養子が不審な死を遂げ、いよいよ桧垣澤家は女系一族に。政略結婚、軍との交渉、昏い秘密。陰謀渦巻く館で、かな子は策をめぐらせながら自身の立身を目論む―

 
 序盤に婿養子・辰市の不審な死が描かれるものの、700ページを超える物語の中盤大部分は、かな子が桧垣澤家で自身の立ち位置を守るために知略をめぐらせるさまが描かれるストーリーで、ミステリ色は薄い。が、表裏を使い分けるしたたかな女性たちの物語はそれ単体でも十分面白く、のめり込んで読めた。

 そして終盤、序盤の事件の真相だけでなく、桧垣澤家に隠されたさまざまな秘密がドミノ倒しのように明らかにされていく。その段では、そこまで描かれていたストーリー中の諸所に仕込まれていた伏線が見事に回収されていき、ミステリとしての魅力が一気に表出される。唸らされた。

 緻密に編み込まれ、人間ドラマとミステリが見事に融合した重厚な一作。見事だった。

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