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ミステリの祭典

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エンドロール

作家 潮谷験
出版日2022年03月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 虫暮部
(2025/02/14 14:43登録)
 “自殺討論会” までは素直に楽しめた。
 しかしそれ以降、話が今一つ広がらず。社会への影響を視野に含めている一方、事件はクローズドな人間関係の範囲内に留まってしまった。かと言って単なる殺人事件としてはミステリ的にさほど面白いものではない。革命と言うよりは内ゲバの話か。

No.1 6点 パメル
(2024/12/15 19:23登録)
新型コロナウイルス蔓延後の風景を反映させて描いた謎解き小説。学生が数年にわたって学習や部活動の機会を奪われるなど、若者たちもコロナ禍から大きな負の影響を受けたが、彼らに注がれる世間の視線は冷たかった。そんな社会に対し、若者の一部は自殺という方法で抗う道を選ぶ。彼らの中には、死ぬ前に自伝を国会図書館に納本する者たちがいたが、それは哲学者の陰橋冬の影響だった。支持者たちとともに集団自殺した彼の厭世的な思想は、若者の間にウイルスのように拡散してゆく。
この動きに対し、高校生にして新人作家の雨宮葉が立ち上がる。五年前に病死した彼の姉・雨宮桜倉はベストセラー作家だったが、その遺作「落花」の登場人物のモデルたちが陰橋の影響で自殺したことから、桜倉の想いが踏みにじられたと感じていたからだ。病状が悪化する中、特別な想いをこめて姉が執筆したはずの「落花」が、陰橋たちのせいで不吉な書物として受け止められている。葉はネットテレビで、自殺を肯定する「生命自立主義者」たちと議論で勝負をつけようとする。
こうして自殺否定派と肯定派、三人対三人の論戦が始まるのだが、ここから先の展開は前作「時空犯」同様、予測不能の振り回す展開でサプライズが多く、刻一刻と物語の様相が変化して驚かされる。かなりアクロバティックな論理に基づく謎解きだが、アクロバティックではあっても奇を衒いすぎた印象を受けないのは、現実の社会を襲った災厄を背景にすることで、登場人物ひとりひとりが背負う死生観に説得力が付与されているからだろう。一見違和感を覚えることなく読み逃してしまいそうな彼らの言動に秘められた真意が明かされる時、作中で軽く扱われている人物など誰もいないということが判明するのである。
葉をはじめとする登場人物たちが、最後に辿り着くのは絶望か、それとも希望か。謎解きの形式でポスト・コロナ社会における死と生を描くことに挑んだ意欲作。描かれるテーマは重いが、全体の雰囲気は暗くない。

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