マーニイ |
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作家 | ウインストン・グレアム |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 9.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 9点 | 人並由真 | |
(2024/11/08 05:45登録) (ネタバレなし) 1950年代末の英国。「わたし」こと20代初めの女性マーガレット(マーニイ)・エルマーは、良家の子女を装って偽名で、各地の職場にOLとして雇われる。そして持ち前の美貌と演技力で周囲の同僚や上司の胸襟を開かせながら、頃合いを見ては会社の金を横領していなくなるという犯罪を重ねていた。マーニイは今度もまた、新たな名前「メアリー・テイラー」を名乗り、若き未亡人として高級印刷会社「ラトランド社」に潜入するが、そこで彼女を待っていたのは思わぬ事態と運命だった。 1960年の英国作品。ヒッチコックの同名の映画の原作として知られる、悪女もののノワール・サスペンス。 映画は、大昔の少年時代に観たようなそうでないような記憶があるようなないような……だが、キャストのデータやネットでのサワリの動画など見ても(観ても)まったく印象にない。たぶんやっぱり観てないかも知れない。 映画の評価も知らないが、まずは原作から、の自己流の基本的な流儀に従って読み出す。 ……いや、メチャクチャ面白かった! 大昔にどっかの古本屋で買ったポケミス(特に映画ジャケットもついてない裸本……そもそも、本作は映画ジャケットバージョンってあるのかな?)を思い付きで引っ張り出して読んだが、『わらの女』+シェルドンの出来のいい長編のミキシングみたいな展開で強烈なドライブ感に酔わされた。 ちなみにもう一作、連想した某メジャータイトルがあるのだが、それを言うと中盤で「え!?」と思わず唸らされたツイスト部のネタバレになるので、ここでは秘匿(汗)。 悪女もの、クライムストーリー、ノワールサスペンス、という意味合いにおいて(やや広義の)ミステリ作品には違いないのだが、謎や推理要素は薄い……あくまでよくできたお話でエンターテインメントと思いきや、終盤の方で先に張っておかれた伏線が回収されるのにも感心した。さらに言うなら読ませる小説として、あちこちの場面の細部がとても良く、特に最後の方の第21章の作者の筆遣いなど、ため息が出る。P・D・ジェイムズやレンデル辺りにも、影響を与えたのではないか。 全350ページの紙幅で読了に二日かかったが、後半というか100ページ辺りからはほとんど一気読み。 物語性に富んで起伏の多い作劇でもあるので、未読の人を配慮してあまりモノは言えない、言いたくない。文芸派の大衆小説としての一級品だと思える。 (ちなみに本作は、65年度のSRの会の年度ベストの海外部門で、第3位ね。今とは投票や順位選定のシステムが、だいぶ違うけれど。) しかし返す返すも地味な作家だと思っていたが、それでもグレアム、意外に打率が高いな。邦訳で未読はあと一冊。もっともっと発掘してほしいものである。 なんとなく地味で、さらにレギュラー探偵キャラもいない? から、出版社としては21世紀に売りにくい、とは思うけど。 |