home

ミステリの祭典

login
カクレカラクリ

作家 森博嗣
出版日2006年08月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 ALFA
(2024/05/17 09:09登録)
山あいの古い町、対立する二つの旧家。
横溝や三津田を思わせる設定だが、怪異も殺人も起きない。
120年前に仕掛けられて、ちょうど今年動き出すはずの「カラクリ」をめぐる本格謎解き。

精緻とはいえないが、さらっと気持ち良く読める文体で読後感も爽やか。

No.1 8点 Tetchy
(2024/05/12 01:13登録)
いやあ、なんとも気持ちの良い小説だ。久々に童心に帰り、ワクワクしながら読み進めることができた。

廃工場マニアの大学生コンビが訪れた鈴鳴という田舎町で絡繰りの天才が仕掛けた120年後に動き出すと云い伝えられている隠れ絡繰りの謎を追うミステリだ。

鈴鳴と云う村が実に特徴的で絡繰り師の村であったからか、村の看板や標識にはやたらと凝った、いわゆる「判じ物」がところどころにあるのが特徴的だ。
「判じ物」で有名なのは「春夏冬 二升五合」と書いて「商い 益々繁盛(あきない ますますはんじょう)」と読ませる、とんち文のようなものだが、本書では道路の行先標識に「呼吸困難」と書いてあり、これを「行き止まり(いきどまり)」と読ませたり、「貴方ボトル」と書いて「郵便(You瓶)」と読んだりする。これはなかなかに面白かったのでもっと出るのかなと期待したが、真知家の表札ぐらいでそれ以降出てこなかったのはちょっと残念だった。森氏にしては珍しく、他に思い浮かばなかったのだろうか。

隠されたお宝を探し出すその過程でそれにまつわる人々の秘密もまた炙り出され、意外な真相へと辿り着く。実はそれは本来ミステリとはこうあるべきだという理想形なのかもしれない。人が死なず、町に伝わる隠れ絡繰りの謎を探ると云うのは暗号で描かれた宝地図を読み解き、真相に一歩一歩近づいていく冒険小説の面白みがあり、胸が躍らされた。

そして町を二分する2大両家のいがみ合いが昔の人たちの優しさに起因するなんて、素敵ではないか。
本書は私にとって森作品のベストとなった。解りやすさもあるが、なにしろ登場人物全てに好感が持て、鈴鳴という架空の田舎村を舞台に広げられるロミオとジュリエットの物語の結末が実にほっこりとさせられたからだ。

2レコード表示中です 書評