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ミステリの祭典

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開化鐡道探偵 第一〇二列車の謎
元八丁堀同心・草壁賢吾

作家 山本巧次
出版日2021年08月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 麝香福郎
(2024/05/01 21:54登録)
高崎から生糸を運ぶ日本鉄道の貨車が、開業間もない大宮駅で何者かの手によって脱線、積み荷からなんと千両箱が発見された。井上鉄道局長は、元八丁堀同心の草壁を呼び出し、事件の調査を依頼する。
群馬の生糸が輸出できるようになり、産業として確立できたのは鉄道網あってのこと。だが同時に時代の変化は様々な場所に軋みを生み、流れに乗る者と抗う者、取り残される者を産んだ。その混沌を近代化の象徴たる鉄道と旧幕の遺産たる徳川埋蔵金、あるいは鉄道と八丁堀同心というアンバランスなモチーフを組み合わせて表現している。
聞きなれない「日本鉄道」とは何なのか、この路線にはどんな新たな試みがあるのか、どうして何もない大宮に新たな駅が作られたのか。こういった要素の一つ一つが歴史を表しているのみならず、謎解きに大きく関わってくる。特にラストシーンで、次はあの碓氷峠を鉄道で越えるんだという決意が述べられるくだりに感動した。挑戦者たちの情熱がこの国の鉄道を作ってきたのだと胸が熱くなる。

No.1 6点 猫サーカス
(2024/04/27 18:18登録)
高崎を出発した日本鉄道会社の貨物列車が大宮駅の構内で脱線した。何者かが列車通過中に分岐器を操作したのが原因だった。さらに積み荷の生糸の中に小判が詰まった千両箱が混じっていたことから事態は大きくなる。千両箱の発見によって埋蔵金の噂が現実味を帯びたため、前半に鎮圧された秩父事件を主導した自由党の残党や、困窮する不平、士族の一団、さらには予算不足に悩む新政府までが警視庁の警官隊を送り込み、にわかに上州の地が騒がしくなる。そして新たに集められた積み荷を納めた高崎駅の倉庫が襲われた際に、他殺死体が発見される。不穏な世情と埋蔵金の存在を背景に、殺人事件が加わって謎がさらに深まっていく。乙松の新妻・綾子が初登場して捜査に加わるのだが、何事にも積極的で聡明な彼女の存在が、物語により花を添えてくれる。彼女の言動におろおろする乙松と、それを見てニヤリとする草壁のやり取りが楽しい。鉄道をめぐる状況と時代背景がしっかりと絡み合った謎解きに加え、列車襲撃というアクションも用意された歴史ミステリ。

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