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ミステリの祭典

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アトランティスのこころ

作家 スティーヴン・キング
出版日2002年04月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2024/02/17 10:09登録)
(ネタバレなし)
 1960年のコネティカット州。幼い頃に父ランダルと死別した11歳の少年ボビー・ガーフィールドは、地元の不動産会社に勤務する未亡人の母リズとアパートに暮らしていた。だがそこにテッド・ブローディガンと名乗る60歳代の老人が入居。テッドと親しくなったボビーは彼から読書の楽しみを教わるが、そんなテッドにはある秘密があった。

 1999年のアメリカ作品。
 
 上下二冊で合計1000ページを超えるいかにもキングらしい長編だが、二日で一冊ずつ読了した。例によって読み出すと止められない。

 2002年に映画化もされているみたいだが、評者は未見。脚本がウィリアム・ゴールドマンだそうで、同人は以前に『ミザリー』の原作の良さを引き出せなかったシナリオを書いているので、いささか不安である。
 で、その映画版もあるので本作の大ネタはけっこう未読の人にも知られているかもしれないが、一応ここでは黙っておく。ちなみに評者は別筋で、一番の大きな趣向については知っていたが、それでも十分に面白かった。

 以下、ギリギリまで書いていいだろうということのみ語るが、文庫版の上巻一冊が1960年を時代設定にした第一部で、これだけで十分に優秀作の長編小説。少年の日のある種のときめきが主題なので素直に『スタンド・バイ・ミー』を想起してももちろん良いが、個人的にはまんま、フレドリック・ブラウンのエド・ハンター&アンクル・アムの世界をキングが書いたらこーなる! であった。つまり私にとって主題と作者の最強最高クラスのマッチングで、本当に面白い。
 で……(以下略)。

 それで後半、文庫版の下巻は、少しずつ時代が現代に近づいていく設定の中短編が連作的に並べられ、上巻の長編第一部とあわせて全部で5パートの物語の流れが本作『アトランティスのこころ』というひとつの小説世界を築く。
 順当に長ければ長いほど良い、面白いという感じで第一部、第二部に関しては文句ないが、第三部の短編は、一見すると「ん?」という感触。ただまあ最後まで読むと、短い短編小説風のパートの役割もわかる。単品としてはそのパートはあまり面白味はないが。
(それでも第四パートは、ちょっといいかな?)

 話をまとめにかかる最終パートは良くも悪くも、ああ、そう来るのね、という感じで大きな驚きも感銘もないが、それでもしみじみとした情感と余韻のなかで決着。
 ちなみに映画は第一部とこのエピローグ的な第五部だけで構成してあるらしい。そんな話を聞く限り、順当な作りというか、構成上のアレンジなんじゃないかな、とは思える。

 1960~70年代にベトナム戦争の波及をリアルタイムで実感した当時のアメリカ人にこそ直球、という作品だが、作者キングの筆遣いは普遍性を込めて全世代に「他人の人生は共有なんか絶対にできないが、互いの接点のわずかなつむぎ合いにこそ意味がある、価値がある」という主題を訴えている感じ。その意味で、特に読者を限定する作品ではなかった。繰り返すが、第一部も第二部も、実にキングらしくて読みごたえがあり、そして心に響いて面白い。
 ……で、その上で、この作品を本当に楽しむには(以下略)。

 またいつか<そういう興味とそういう視座>で、この作品を読み返すこともあるのかな? そこに行くまで、かなり長い道筋になりそうだけど(汗)。

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