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ミステリの祭典

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古書殺人事件

作家 マルコ・ペイジ
出版日1955年06月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2021/08/26 16:07登録)
(ネタバレなし)
 1930年代のニューヨーク。30代半ばの古書店主ジョエル・グラスは、美人の愛妻ガーダを助手にして本業の傍ら、古書業界のなかで起きる稀覯本の偽造や改竄、盗難などに対処するトラブルシューターとしても活躍していた。そんな彼の周囲で、大手古書店の主人エイブ・セリグが何者かに殺害される。セリグは以前に、自分の店の店員ネッド・モーガンが稀覯本を盗んだと告訴し、モーガンを数年間の服役に導いた事実があった。だがセリグの蔵書の中から盗まれたはずの稀覯本が見つかり、実はモーガンと自分の娘レアとの交際を不興に感じていたセリグが、モーガンに冤罪を着せたのでは? そして今回の殺人はそのモーガンの復讐だったのでは? という疑念が生じる。
 
 1938年のアメリカ作品。
 
 昭和の後半、全国のミステリマニアがレアなポケミスを集めるのに血道を上げていた時代、そして1985年に復刊される前で本書が初版しかなかった時代に、神田の神保町の古書店などでは1万円もの値段がついていた作品。
 ひとえにこの邦題から古書好きのミステリマニアの注目の的の稀覯本となっていたわけだが、今から思えば古書ブローカーなどによる価格の釣り上げなどもあったかもしれない。沖縄返還前後の守礼門の琉球切手みたいなものだ。
 
 ちなみに1985年の復刊は単なる再版ではなく、奥付に「改訂1版」と明記された珍しい仕様で刊行。nukkamさんのおっしゃる印字の逆立ちなども特になかったから、その辺も含めてきちんと改訂されて刊行されたらしい。早川は訳者・訳文そのものは同じでもHM文庫など入れる際に、編集が本文に今風の表現になるように手を加えることもあるので、この改訂版ポケミスも訳文全体に多少の改修がなされている可能性もある。

 いずれにしろ本作はこの85年版のおかげでいっきょに値崩れし、さらにほぼ10年後のジョン・ダニングの登場などで、「(比較的)レアな古書ミステリ(の筆頭)」という側面まで粉砕された。今ではもう稀覯本、レアなミステリだったというかつての栄華の影など片鱗もないね。

 そんな評者もこの85年版を新刊で買ったハズだが、しばらく前から読みたくても、例によって見つからない(汗・笑)。それで思いついて一週間ほど前に、webで200円でまた85年版を購入。届いてすぐ読んで、こうしてレビューを書いている。

 また昔話になるが、本作はもともとこのなんとなく格調高そうな邦題から、正統派のフーダニットパズラーだと、読みたくても読めなかった昭和のミステリマニアたちに認識されていた気配がある。今はその定見も崩れて、もうちょっと軽いB級の都会派ミステリという見識が定着しているようだ。(nukkamさんのおっしゃるジャンルミックスものというのも、当を得ていると思う。)
 
 本作は三人称複数視点の形式で、主人公ジョエルの視点で物語が進んで彼が殺人事件の捜査に乗る流れなどは普通に軽めのパズラーっぽいのだが、視点が変わり、古書業界に巣くう悪党や小悪党などの叙述が混ざりはじめると、雰囲気的には別のジャンルのミステリっぽくなる。ハードボイルドともノワールとも一概に言い難いが、そのあたりは個人的にはのちのロス・トーマスやレナードあたりのヤバい連中の描写を思わせた。

 お話そのものは悪いテンポではないが、とにかく閉口したのが、いきなり初発の固有名詞(人物名)がホイホイと飛び出してくる小説の作法で、これは例によってメモを取りながら読み進めてなお、ウンザリした。
 作者マルコ・ペイジ(ハリー・カーニッツ)はもともと脚本家だから、本領の映画や演劇の分野では当然、登場人物の名前を初出で出す際には、受け手に向けて「そういえば、常連のお客さんの××さんは」とか「叔母さんの××さまが」とか説明っぽいセリフにしなきゃいけないと思う。
 だからその辺のくびきを逃れて、受け手(読者)が読み返すことも可能な小説メディアでは、かなり好き勝手にマイペースに、それこそリアルにポンポンと初出の名前を放り込んだのだと思うが……どうだろうね? 
 (この辺は意見が分かれるかもしれないが)もうちょっと翻訳の方の演出で、初出の名前にストレスを感じなくするとかフォローをしてほしかった。(まあ、もしかしたら、フォローして、コレ、なのかもしれないが。)

 古書業界の話ながら、具体性のある古書などはあまり話にからんでこないし、稀覯本の改竄、偽装をする専門家といった興味深いキャラクターを登場させながら、ほとんど掘り下げないのも残念。
(『モルグ街の殺人事件』の元版・初版をほとんど詐欺同然に騙し取られた気の毒な人の逸話だけは、ちょっと心に残った。)

 犯人は半ば見え見えだが、それでも真相に至る見せ方がちょっと面白いのは、シナリオ作家らしい。
 ちなみにヒロインのガーダ、キャラポジション的には絶対に評者のスキになるタイプの女性なのに、あんまり魅力的に見えないのはなぜか。たぶんろくに活躍の場も与えられないからだな。
 本作はもうひとり、同年代のヒロイン、ヘレン・スコット(保険調査員ラングナーの恋人役)が登場。このキャラ要らないんじゃないの? とも思ったが、たぶん本作が映画化の機会でもあった際の欲目での、スター女優枠なのであろう。
 ペイジ名義ではそんなにミステリも書かれず、当然、これもシリーズ化できそうなのに、されることはなかった。それでもあんまり惜しくないなあ、とは思う。

No.1 5点 nukkam
(2016/07/10 21:34登録)
(ネタバレなしです) 作家としてよりも映画脚本家として有名な米国のハリー・カーニッツ(1907-1968)がマルコ・ペイジ名義で1938年に発表したのが本や本業界が重要な役どころを担うビブリオ・ミステリーの古典と評価される本書です。内容はジャンル・ミックス型で、前半はグラス夫妻のユーモア溢れる会話が楽しい本格派推理小説のプロットですが後半になるとハードボイルド風な殺人や誘拐が発生して個人的にはやや苦手な展開になりました。しかし最後は推理による謎解きで締めくくっています。私の読んだハヤカワポケットブック版は古い翻訳で一部印字がひっくり返っていたりしましたがストーリーテンポが早いためか意外と読みやすかったです。

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