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ミステリの祭典

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贖いの血

作家 マシュー・ヘッド
出版日2023年12月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 nukkam
(2024/07/04 22:30登録)
(ネタバレなしです) 米国の美術史研究家であるジョン・キャナディ(1907-1985)は1940年代から1950年代にかけてマシュー・ヘッド名義で7冊のミステリーを発表しました。4作がアフリカを舞台にしたメアリー・フィニー博士シリーズ、3作が非シリーズ作品です。1943年発表の本書がミステリーデビュー作となる本格派推理小説です。広大な土地に数々の建物を構える大富豪の女性と彼女を取り巻く人間たちを丁寧に描いています。英語原題が「Smell of Money」、直訳すれば「金の匂い」ということで金銭目当てのドラマを意識したのかもしれませんが、親族以外の人間と大富豪がどういう人間関係なのかをちゃんと説明していないのでドラマとしては中途半端な感じがします。死体発見場面はそこそこ派手な演出ですがそれ以外は地味です。「醜聞」というタイトルが付く15章、16章あたりからようやくミステリーとして盛り上がり、主人公が犯人に推理を披露して真相を明かすところは本格派風ですが、むしろその後のまさかの展開の方が記憶に残ります。

No.1 5点 人並由真
(2024/02/06 03:11登録)
(ネタバレなし)
 その年の春。「僕」こと25歳の新鋭画家で美術研究家のビル・エクレンは、ハーバード大学の学友だった英語講師トム・シェーンの紹介で、カリフォルニアにある大邸宅「ハッピークロフト」の敷地の一角にある私設美術館の管理人となる。ハッピークロフトは、莫大な資産を有する70歳代の未亡人ジムソン夫人が女主人だ。ビルは夫人の孫娘アン・ベスや夫人の友人の取り巻き連中などとともに、屋敷に住み込みの生活を始めるが、次第に、売れない詩人オジー・メイソンの妻で、40歳代ながら若々しいバーバラと惹かれ合っていく。そしてやがて、予期せぬ惨劇が。

 1943年のアメリカ作品。
 
 なかなか事件(殺人)が起きず、主人公ビルの一人称での視点から語られるハッピークロフトに集う者たちの群像劇、そしてメインヒロインといえる? バーバラとビルの関係性の叙述などにかなりの紙幅を費やす。そういう作りそのものは別にいいし、部分的にはなんかチャンドラーっぽい修辞も出てきて、ちょっと読み手をくすぐる(具体的には、P75の「(あなたは)給料日のハンサムな自動車修理工みたいに粋がっている」とか)。
 
 ただし一方で全体的にかなり地味な筋運びでもあり(殺人そのものは結構ショッキングなビジュアルで起きるが)、小説の滋味で勝負しようとしている作品なのはわかるが、実際のところ、冗長なオハナシでツライなあ……というのもホンネ(汗)。
 終盤の殺人者の内面というか、動機のありようはこの作品のもうひとつのポイントだとは認めるが、それはそれとして、この決着でいいの? と思わないでもなかった。
(微妙に許せるというか容認したい部分がまったくない訳ではないが、いくばくの葛藤の末に選んだ結末ならともかく、その辺の<あるべき摩擦感>が薄いように思えるので。)
 
 ヒトによってはもしかしたら相応にシンクロするかもしれないが、評者にはいまひとつ心に響き切らなかった作品。いや、引っかかる部分は確かにないわけではないんだけどね。

【2024年2月28日追記】
 この作品、サンド―の「図書館に入れるべき名作ミステリ」のオススメリストにも入ってたのね。あとから気が付いた。
 あと、なんかネットのウワサでは、創元の「世界推理小説全集」の「刊行告知の予告だけされて結局出なかった(別の作品に配本がすげ変った)」作品の一冊でもあったらしい。そっちの方は評者は未確認だが、たとえばもし「世界推理小説全集」のどの作品(どの巻)の巻末リストとかで、見られるのか? とかすぐに分かる方がいたら御教示ください。よろしくお願いいたします。

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