オパールの囚人 アノー |
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作家 | A・E・W・メイスン |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/07/03 16:01登録) (ネタバレなし) 『薔薇荘にて』の事件を体験した元実業家のジュリアス・リカードは、知人の若い娘ジョイス・ウィップルから相談を受ける。それはジョイスの友人で、遺産を相続した若き城主ダイアナ・タスパーロウが何か訳ありでトラブルの気配があるので、事情を探り対応してほしいというものだ。ダイアナの城「シャトー・スブラック」の近所の別の城「シャトー・ミランドル」に縁があったリカードは、口実を設けてダイアナの城に赴くが、これと前後して『薔薇荘』事件でも面識のあるパリ警視庁の名警部アノーも事態に介入してくる。やがてダイアナの城の周辺では思わぬ事件が。 1928年の英国作品。アノーシリーズの長編第三弾。 名のみ聞いていた作品をようやっと、読みやすい新訳で読めて、とても嬉しい。 なるほどタイトルの意味はよくわからん。作中での説明を聞いてもよくワカラン。 以前に『薔薇荘にて』のレビューで、<ホームズ全盛期の時代と、黄金時代との過渡期的な作品>という主旨の感想を書いたと思うが、今回もそんな感じ。 いい意味で紙芝居みたいな筋運びもお話の起伏を感じさせて、面白い。 大ネタは、ああ! と驚いたが、そういえばこの真相は以前にどっかの本作の紹介文(たぶん海外作家のコメントの翻訳)で読んでいた(そして今回、読むまで完全に忘れていた)のを思い出した。 このタイミング(原書刊行年の1928年)にこういう内容の作品があったという事実で、近代ミステリの進化の系譜のミッシングリンクが、ひとつ埋まった気もする。 事件の構造、死体の左手が切られた理由、それぞれクラシック作品としてはなかなかの創意で、さらに22章のアレ、のちの欧米作家のかの名作に影響を与えたのでは? とも思う。 こう書くとかなりの秀作っぽいんだけど、前述の大ネタがいささかミステリとしてはオフビートすぎる面もあり、素直な謎解きミステリの文法で語っていくと(以下略)。うん、クリスティーの某作品を想起させないでもない(こう書いてもネタバレには絶対にならないと思うが)。 秀作、優秀作とはいいにくいし、かといって佳作として評価をまとめたくもない。ナナメ度の高い名作? もしかしたら、初期アノー三作の中では一番スキ……というより、心に接点を覚える作品かも。 アノーもの、残りの最後の長編「彼らはチェスの駒ではない」の邦訳が楽しみである。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2023/05/30 00:39登録) (ネタバレなしです) 1928年発表のアノーシリーズ第3作の本格派推理小説です。第1章でワトソン役のリカードが「私が立っているこの世界は、巨大なオパールのようなものだ。(中略)オパールの中の囚人にとっては、ひどく不安で居心地が悪い」とコメントしていますが、(論創社版の巻末解説でも触れられていますが)なぜオパールを連想したのかが十分に説明されないままで終わってしまいました。他にも登場人物が突然場違いみたいな発言をして読者を面食らわす場面があり、それが謎解きの伏線として後で活用されればいいのですがあまり上手く処理されていないように感じました。真相の異様さはこれまでのシリーズ作品中でも1番で、21章では印象に残る手掛かりが紹介され、サスペンスが光る場面もありますが説得力のある推理による謎解きを期待すると失望するかもしれません。事件解決後に冒険談が語られるのがこの作者らしいです。 |