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ミステリの祭典

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闇が迫る マクベス殺人事件
ロデリック・アレンシリーズ

作家 ナイオ・マーシュ
出版日2023年05月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2023/10/16 21:29登録)
(ネタバレなし)
 ロンドンのサウスバンク、そしてノースバンク周辺に建つ大劇場「ドルフィン劇場」。そこではベテラン演出家ペレグリン・ジェイの指揮による「マクベス」の公演が、近日内に予定されていた。フリー契約で集まった俳優たちや裏方スタッフの間にはさまざまな人間模様が紡がれるが、やがて稽古中に匿名の主による妨害工作が続発する。二十年近く前に同劇場で起きた殺人事件を解決し、ペレグリンとも懇意になっていたスコットランドヤードの名刑事ロデリック・アレンは、くだんの「マクベス」の興行を注目していたが、ついにそんな彼の前で異常な殺人事件が発生した。

 1982年の英国(執筆はニュージーランド)作品。ロデリック・アレンシリーズの第32番目の長編で、マーシュの事実上の遺作。

 解説でも書かれているが、アメリカじゃスペンサーやらモウゼズ・ワインがデビューしてすでに十年近く経った時節に、まだこの黄金時代の名探偵は現役で活躍していたのだな。どうにも感無量だ。

 殺人が起きるのは物語の後半、かなりページが進んでからだが、登場人物のメモを取りながら読むと、座組された俳優やスタッフたち面々のこまごました群像劇が、なんか非常に楽しい。
 気分的には、高校の日常を舞台にした学園アニメで、主舞台となるサークル活動での動向を覗き込むような種類のゆかしさがあった。
 そんななかでタイトルが暗示するように、不穏な空気がじわじわと染み出してくるゾクゾク感もまたたまらない。
(中年女優のなかには、もともと「マクベス」は実は縁起の悪い芝居で、興行するとしばしよくないことが生じる、という迷信を信じているものもいる。)

 そういう物語の構成ゆえ、肝要のミステリ部分はおのずとコンデンスに後半3分の1ほどに詰め込まれた感もあるが、見方によっては伏線といえる描写もちゃんと前半から忍ばせてはある。そういう意味でソツのない作り。

 犯人の意外性はともかく、ややぶっとんだ動機は印象的だが、個人的には共感しちゃいけないものの、その思考は理解できないこともない(当人はもちろん、すこぶるマジメであったのだろう)。
 地味っぽいが曲のあるストーリー、多様なキャラクタードラマ、そしてそれらとバランス良く和えた(あえた)ミステリ要素……と、普通以上に十分面白い作品であった。
 
 で、不満は、先のレビューでnukkamさんがおっしゃる通り、本作の前日譚といえる別の長編(同じドルフィン劇場が舞台で、1966年の未訳作品)の犯人の素性を、アレンとワトスン役の部下の刑事との会話でネタバレしていること。
 こーゆーのって、翻訳者と編集部の判断で本文中の当該箇所をあえて伏字にし、解説かどっかでお断り付きで正確な訳文を紹介するとかの処置をするのもアリではないかと思う。
 いやもちろん、基本的には確かに海外ミステリの邦訳は、作者の叙述そのものの文章をそのままタテにしてもらった日本語で読むべきだとは思うけれど、あえて特例の特例措置として。

 マーシュで8点あげようか迷う作品が出るとは思わなかった。(とはいえ最終的には、作者のそーゆー天然ぶりで、なんの気兼ねなく点をやや低めにつけられる。)

No.1 5点 nukkam
(2023/07/07 20:42登録)
(ネタバレなしです) ナイオ・マーシュ(1895-1982)の遺作となった1982年発表のロデリック・アレンシリーズ第32作の本格派推理小説です。但し論創社版の巻末解説によると、第二次世界大戦中に書きかけていた小説断片と創作メモを基にステラ・ダフィー(1963年生まれ)によって完成された長編が2018年に出版されたそうですけど。本書の舞台は1966年に米国で初出版されたシリーズ第24作と同じドルフィン劇場で、再登場する人物がいたり事件関係者の家族が登場したりしています。そして個人的に危惧していたのが当たってしまいましたが、過去事件の犯人がばらされてしまっています。この作者のネタバレ悪癖は最晩年まで治りませんでしたね。マーシュは劇の脚本家や演出家としても名高いですが、本書での「マクベス」の上演に向けてのリハーサルシーン描写は非常に力が入っています。ただ事件がなかなか起きないこともあってミステリーとしての密度がやや薄いところは「ヴァルカン劇場の夜」(1951年)に通じるところがあり、解決も唐突です。動機が結構印象的ですが賛否両論になりそうで、巻末解説でも色々フォローしていますね。

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