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ミステリの祭典

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ラブカは静かに弓を持つ

作家 安壇美緒
出版日2022年05月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 9点 まだ中学生(仮)
(2023/09/06 22:06登録)
舞台は現代日本。主人公の橘は、音楽著作権管理団体に勤め、ごく平凡に日々の業務をこなしている会社員。
ある時、上司から呼び出された橘が、音楽教室への二年間の「潜入調査」を命じられるところから、物語の幕が開く。調査の目的は、著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
人と人とが出会い、時を重ねて生み出される信頼という感情。そのかけがえのなさが、チェロの深い響きと共に真っすぐに胸を打つ。橘が最後に何を選び取るのか、ぜひ見届けて欲しい。

No.1 7点 猫サーカス
(2023/03/04 18:15登録)
音楽著作権の管理団体に勤務する橘樹は、上司から大手音楽教室への潜入調査を命じられる。生徒としてレッスンに通い、楽曲の違法使用の実態を探るのが目的だ。入社してまだ数年、20代の橘に命令が下ったのは、彼にチェロの演奏経験があったからだ。しかし少年時代に習っていたものの、とある事件に遭遇して以降、彼は悪夢に悩まされ、チェロだけでなく人とも距離を置いて孤独に生きてきた。気が進まないまま赴いた教室にいたのは、同年代の青年チェロ講師、浅葉。気さくな彼の的確な指導の下、橘は少しずつ音楽に触れる喜びを取り戻していく。二人の間には温かな師弟関係が育まれていくが、それだけでなく教室の生徒たちとの交流も生まれ、友人すらいなかった橘の日常に光が差し込んでいく。しかししょせん、彼は浅葉たちをだましている身なわけで、任務が終われば裁判で証人として出廷する予定なのである。ラブカとは深海魚の名前だ。作中、架空のスパイ映画のタイトルに使われているが、2年間も潜伏する橘のコードネーム的な意味合いもあり、彼が長年苦しむ深い海の悪夢の象徴でもあるといえるだろう。終盤には意外な事実が明かされ、さらに橘が大胆な行動を起こすなどスリリングな展開が待っている。だが、本作の読みどころはやはりサスペンスというより、人間ドラマの部分だ。嘘から生まれた信頼関係、師弟関係を、だました側、だまされた側がそれぞれどう受け止めるのか。葛藤と向き合った後の最終場面は胸を撃つ。音楽著作権の説明は分かりやすく、音楽に関する描写もこまやか。練習場面などささやかな場面にもリアリティーが宿っており、作者の力量がたっぷり味わえる一作である。

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