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ミステリの祭典

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寒い夏の殺人

作家 南川周三
出版日2000年02月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 nukkam
(2023/02/25 18:42登録)
(ネタバレなしです) 南川周三(1929-2007)は大学教授で、詩集や美術評論や寺院研究書などを執筆していました。1999年に定年を迎えた後に最後の著作となった本書を2000年に出版しましたが何とこれが本格派推理小説でした。うーん、まじめな作品ばかり書いていたから最後ぐらいはお茶目に娯楽作品をと考えたんでしょうか(笑)。高級な社交クラブのメンバーが次々に殺され、現場には犯人からのメッセージらしき「M」の一文字が残されます。殺害シーンの直接描写もあり、正体は最後まで伏せていますが男女の複数犯であることが読者には開示されています。とはいえ読者が自力で謎解きできるようにフェアに伏線を張った作品ではなく、後出し説明で真相が明らかになる結末は不満があります。エピローグで警部が反省する「とんでもない勘違い」も手掛かりとしては弱いです。しかしミステリー界では全く無名だった人の作品まで発掘する人並由真さんはすごいなー。

No.1 6点 人並由真
(2023/01/13 07:54登録)
(ネタバレなし)
 その年の夏のある夜、一組の男女が密談を交わした。それから間もなく、500人以上の上流階級の人間や社会的な名士が集う社交クラブ「東京ソシアル・クラブ」の一員で、複数のマンション経営者の火野清三郎が、ホテルの一室で殺された。やがて第二、第三の、殺人事件の犠牲者がクラブの会員内から発生。警察の捜査陣は、毎回の犯行現場に謎の犯人が残したと思しき「M」の文字に注目するが、その意味はなおも未詳なままだった。そして更に連続殺人は継続していく。

 半年ほど前のヤフオクで、全然知らない作家のまったく知らないミステリがそれなりの落札価格になっていた。
 調べてみると作者は詩人、美術評論家として活躍した、東京家政大学の名誉教授だった御仁らしい(2007年にすでに他界)。
 まったくフリの立場ながら、なんか興味がわいて、近所の図書館(うまい具合に蔵書があった)から借りてきて、読んでみる。
 ちなみにこの人のほかの十数冊の著作は、学術系の評論、研究書ばっかりで、ミステリどころか小説はこれ一冊だけだったようだ。

 目次にはいきなり「第一の殺人」から「第六の殺人」までの見出しが並び、これは退屈する暇はないと期待したが、正にその通り。260ページ二段組という紙幅のなかで、ハイペースに被害者が次々と殺されていく。
 登場人物に、ザコキャラまで無駄にネーミングしてあるのはいかにもアマチュア作家っぽいが、文章そのものは平明で良い意味でさっぱり系。笹沢佐保の初期作品から水気を少し抜いた感じで、とても読みやすい。

 殺人の被害者がみな同じ高級社交クラブの会員とはいえ、なぜ500人ものメンバーの中から選抜されるのか? 連続殺人の構造が何らかの法則性にあるのを期待させてミッシング・リンクものとしてなかなか面白い。

 全体の5分の4くらいまでは、これは埋もれていた佳作~秀作か? 拾いものか?と、かなり期待させたが、最後の最後でズッコける。
 ミッシング・リンクのネタそのものは、子供の思い付きレベルの延長でそこそこ面白いが、要はそれをやりたかった、受け手に読んでほしかっただけで、犯人の動機もその背後事情も、あまりにもベタすぎる。事件の真相が推理ではなく、関係者の告白でわかるってのもナンだし。あと、ちょっと、ある種の情報を出さないところもアンフェア気味かも。

 トータルとしては佳作の手前くらいの出来だが、まあ途中までは、予期していた以上にゾクゾクさせてくれたのも事実。評点はこの位はあげておきましょう。
 
 もし作者がもともとのミステリファンで、生涯に一冊くらい実作を書いてみたくなって、その上でこのレベルなら、確かにこの作品だけでやめておいたのは適切だったとは思う。いや、良い意味で、ではある。

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