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ミステリの祭典

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ロング・アフタヌーン

作家 葉真中顕
出版日2022年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/11/19 06:30登録)
(ネタバレなし)
 中堅出版社「新央出版」の書籍部に勤務する30代半ばの女性編集者・葛城梨帆。2020年の歳末、彼女は一通の封書を受け取った。中には小説「長い午後」が同封されていたが、それは7年前に梨帆と縁があった小説家志望の中年女性・志村多恵の久々の新作であった。「長い午後」を読みふける梨帆は、やがて作品のなかに引き込まれていくが。

 3年前の『Blue』以来、久々に葉真中作品を読んだ。
 読者は主人公の女性編集者、梨帆の視点との同一化を求められ、さらに同時に小説家志望の女性、志村多恵の書いた二編の小説(本作の中の劇中作)である旧作短編「犬を飼う」と新作中編(短めの長編?)「長い午後」の内容に付き合わされることになる。

 ある種の技巧的な長編ではあるが、トリッキィというよりは独特のムーディさを感じさせる作品で、評者のか細いミステリ遍歴の中からあえて類似作をあげるなら、中期の泡坂妻夫の諸作にかなり近いのではないか。(あるいは日下圭介の作品あたりかも?)

 終盤まで読んで読者の受け取り方によって、物語の着地点が変わるような種類の作品という気もして、その意味ではなかなかユニークな作品(ミステリ)である。
 実際、読後にAmazonのレビューをざっと見ると「わけわからん」という声もあれば、「ひさびさに小説らしい小説を読んだ」と賛辞する人もいるようで、さもありなん、という感じ。

 ちなみに評者の場合は、巻頭の劇中短編「犬を飼う」(これは志村多恵が7年前に書いた作品)を読んだ際は(中略)という印象で、いささかヘキエキしたが、しかしそういう思いは先に小説の作中で一部の登場人物が先に代弁してくれて、それでこちらの荒んだ感情がかなり鎮まった。たぶんそういう流れも、作者の計算のうちなのだろう(笑)。
 それでそのまま、梨帆視点の現実のストーリーと、さらに新たに今回送られてきた新作「長い午後」を読むことになるが、気が付いたら長編一冊、二時間前後で読了。
 300ページ弱、一段組の本文で、紙幅そのものはもともとそんなでもないが、とにかく読み手を引き込む求心力は、かなりのものといえる作品だ。
(なおサイド部分? の叙述だが、2020年の出版界が舞台の作品だけに、コロナ禍の話題や、出版不況の中での送り手の生々しい現実、そして……などなど、その辺の雑多な? 興味でもなかなか読ませる。)

 秀作とも佳作ともダイレクトに言い難いが、いずれにせよ読んで良かった、面白かったとは思えるので、やはり良作なのではあろう。ある意味、読み手を選ぶ作品かもしれないが?

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