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ミステリの祭典

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正義の段階 ヤメ検弁護士・一坊寺陽子

作家 田村和大
出版日2022年02月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 メルカトル
(2023/04/20 22:43登録)
ヤメ検弁護士の一坊寺陽子のもとに、同期で同じ福岡で開業している桐生晴仁から依頼が届く。
それは桐生が起こされた懲戒請求の代理人だった。
「桐生晴仁が佐藤昇を殺した」。
懲戒請求の理由に書かれていた人物は桐生の従兄弟で16年前、両親を殺害した罪で収監されている人物だった。
陽子は依頼を引き受けるが・・・・・・。
Amazon内容紹介より。

まず言いたいのはタイトルのネーミングセンスの無さ。『正義の段階』って意味分からんし、一坊寺陽子って・・・。確かに舞台である福岡には一坊寺麻希という現役弁護士がいます。作者も弁護士なので知己かも知れませんし、許可を得て名前を借りたのかも知れません。別に雨宮麻衣でも神凪瞳でも(テキトー)良かったけれど、一坊寺だけは駄目でしょう(ご本人には失礼ですが)。このタイトルを見てよし!これを買って読んでみようと思う人は少ないんじゃないですかね。はっきり言ってダサいもん。

前置きが長くなりましたが、正直私は作者に振り回されましたね。二つの親殺し事件を扱っていますが、二件目の案件がややおざなりにされている気がしました。意外と早い段階で真相が明かされて、その後は一体どこに向かって物語が進んでいるのか判然としません。謎らしきものも少ないし、何だかなあと思っていたら、ラストで見事に背負い投げを喰らいました。まさかこんな事になっていたとはねえ。ここに来て初めて作者の凄みを見せつけられた気分です。ただ細かい事を言うと、そんなに上手く思惑通りに事が運ぶだろうかとは思いました。しかしとにかく読んで良かったですよ。

No.1 8点 人並由真
(2022/11/02 16:18登録)
(ネタバレなし)
 福岡在住の一坊寺陽子は、個人法律事務所を営む40歳で独身の弁護士。以前は東京の検察官だったが、彼女なりの考えでかなり前に退官し、九州で今の仕事を始めていた。そんな彼女のもとに、同期の弁護士で今は公益活動家(NPO法人と連携して弱者を支援する者)でもある桐生晴仁から、二件の仕事を手伝ってほしいと依頼がある。そしてその内の一件は、桐生自身の弁護士としての資格を問う、弁護士会宛の「懲戒請求」に関するものだった。

 古参ミステリサークル「SRの会」は隔月で会誌「SRマンスリー」を発行。その最近号で今年2022年の半ばまでの新刊ミステリ(国内、翻訳)を俯瞰した記事があり、その中で「これは本当に驚かされた(大意)」と紹介されていたのが、この作品であった。

 評者などは完全に未知の作者で、当然、著作は初読み。そもそもタイトルからして、いかにも一時間ものの連続ドラマ化をあてこんだキャラクターものの二流ミステリみたいなので、もしかしたら何も言われなければ、かなり高い確率でスルーしていたと思う。
(ちなみに本作は現状ではシリーズものではなく、あくまで単発の作品、今後シリーズ展開される可能性はあるが。)

 で、根がスノッブな評者などは、そうしたいかにも安っぽい? タイトルの作品の中に秀作、優秀作があるなら、それはぜひともヒトより先に読んで「あ、まだあれ、読んでないんですか? まあ、題名が題名なので、ノーマークなのは仕方ないですねえ……」とかなんとか、ウエメセでのたまいたい正直な欲求がある(性格悪いね。すみません・汗)。
 ということで、イソイソと読んでみたが、うーん、これは確かになかなか……!

 まず、主人公の弁護士・陽子をはじめとする各登場人物の書き分けが結構なレベル。大半のキャラクターが素直な善人というわけではないが、その分、清濁の人間味を併せ持った厚みのある書き方をされている。
(特に中盤から登場し、陽子の相棒役となる某年配キャラが実にいい。)

 しかしそれ以上に唸らされたのはやはり、話(というかメインの事件)の意外な構造と、それを少しずつ露わにしてゆく作劇の達者さ。
 ミステリとして、事件の奥行きの深さを大きな評価要素とするなら、今年の国産ミステリでもたぶん間違いなく上位クラスに入る一本だろう。でもって、最後の最後のさらなる……(以下略)。
 いや、ウワサ&期待通りの優秀作であった。

 なお作者は現役の弁護士らしいが、なるほど、法律関連のロジックや発想力を駆使し、こういう作品も書けるという種類の作品でもある(かといってそんなに敷居の高い内容ではなく、無学なシロウトにもとても呑み込みやすいもの)。
 あと(中略)は(中略)だという、ミステリファンの盲点をついた? (中略)トリックはお見事。ミステリの創意としてはココが一番、賞味部分かもしれない。

 ちなみにAmazonのレビューではそれなりに高い評価を獲得。コメント付きのレビュー(現状では2つしかないが)ではどちらも☆五つである。さらにTwitterで感想を探ると6月ごろに、今年の(現時点までの)ベストワンではないか、との声がひとつあるだけ。

 このままだと、ほとんど誰もチェックしない今年の埋もれた秀作、というポジションに落ち着くオソレもあるが、まあそうなったらそうなったで、オレ(と実際に本書を読んだどっかのヒト)だけがこーゆーひそかな秀作を知ってると隠微な愉悦に浸れる楽しみもあるので、それはそれでいいかな、と(笑)。
(エンターテインメント作品としてはリーダビリティも高く、かなり敷居の低い作品だけどね。)

 最後に、陽子主役のシリーズ化は是非とも希望。

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