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ミステリの祭典

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父親たちにまつわる疑問
アルバート・サムスン

作家 マイクル・Z・リューイン
出版日2022年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 ことは
(2023/03/09 01:04登録)
久しぶりのサムスン物。もう新作は読めないと思っていたので嬉しいよ。
個々の話は、長さも短いので、きわめてシンプル。印象的なキャラクターと、どこかほのぼのしたユーモア。プロットは無駄なく引き締まっていて私立探偵小説の好短編といえる。
(ジャンル投票は「ハードボイルド」としました。サムスン物は「私立探偵小説」だけど、「ハードボイルド」ではないよなぁと思いながら)
全体を通すと、全ての話が大なり小なり「家族の話」で、かなり高齢となったリューインが、ここでこのテーマにフォーカスするのかと、意外なような、納得なような……。
なんにしても、感慨深いな。
久しぶりに、中期の傑作を読んでみようかな。記憶では「消えた女」「季節の終り」がツートップなんだけど、今読むとどう思うかな?

No.1 7点 人並由真
(2022/10/27 03:28登録)
(ネタバレなし)
「わたし」ことインディアナポリスの私立探偵アルバート・サムスンは、ある日、奇妙な青年の依頼を受ける。実在する人気バスケットボール選手と同名の「レブロン・ジェイムズ」を名乗る若者は、自分が異星人と地球人のハーフだと称し、自宅から奪われたDVDソフトと、父親の思い出にからむある品物の捜索と回収を願い出た。サムスンは、依頼人がイカれてると思いつつ、相手が対話の礼儀をわきまえており、そして事件そのものの説明に不順がないことを認めて調査に乗り出すが。
(第一話「それが僕ですから」)

 2018年にアメリカで書籍刊行された、私立探偵アルバート・サムスンものの連作中編集で、全4本を収録。雑誌の初出は2011~2014年。

 第二話まで読めば大体わかると思うが、同一人物のエキセントリックな青年が毎回、別の名前を名乗って、のべ4つの事件や案件について相談・依頼にくる。本書に収録された4本の中編は、そういう趣向の連作シリーズ。
 40年以上続くサムスンシリーズの中でも異彩を放つ、シリーズインシリーズの連作中編もの、という趣向になる。
 
 それぞれの事件の中身はかなりシンプルなものもあれば、それなりの意外性を語るものもあるが、大枠としてはスタンダードな私立探偵ものの連作中短編。ある種のトラディッショナルを感じさせるものだろう。
 個人的には、やや長めの第四話(表題作)のなかで、調査のため出先の田舎町でサムスンが古い回転木馬の遊興施設に出会い、思いもよらず内なる情感を刺激されるところなんか、ちょっとイイなあ、と思ったりする。

 サムスンを支える、そして本連作のもうひとりの重要キャラとして、彼の娘で今は若手警官となった愛娘サム(本名マリアンヌ)がそれなりに活躍。巻末の解説によるとサムは長編『A型の女』でデビューというが、評者は言われてみて、そういえばそんな娘(作中ヒロイン)がいたっけな、と思い出した。さすがに数十年前、当時の新刊のポケミスで読んだきりだったので、細かいことはまったく忘れてしまっている(汗)。
 連作4編の半ば~終盤に、主人公サムスンのこれまで語られなかったプライベートな一面が明かされ、その叙述を経て彼の家族たちの関係性に変化があり、ちょっとだけこちらも心に染みる。
 サムスンの本気で真剣なファンを名乗るまでには至らないものの(そういう人はきっと、シリーズのこれまでの主要作を読み返したりしているのだろうな?)、日本に初登場のときからそれなりの親しみを込めて付き合ってきた評者などにも、なかなか嬉しい新作短編集ではあった。

 さて2020年代にはサムスンものの新作は、いつか書かれる日が来るだろうか? それこそ末席のファンのひとりとしては、いつの日にかまた再会の時を願いたい。

 本書の評点は0.5点くらいオマケ。

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