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ミステリの祭典

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競争の番人
白熊楓シリーズ

作家 新川帆立
出版日2022年05月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 文生
(2022/10/24 08:12登録)
公平取引委員会版『マルサの女』といった感じの作品であり、あまり知られていない公平取引委員会の実態について描かれている点は興味深く読むことができました。それに登場人物のキャラもよく立っています。ただ、ミステリとしては薄味で驚くような展開もなく、その辺りに関しては物足りなさを覚えました。

No.1 6点 人並由真
(2022/10/18 16:01登録)
(ネタバレなし)
 父親と同じ警察官を目指しながら、やんごとなき事情からその道を断念。現在は公正取引委員会の一員として働く29歳の女性・白熊楓。彼女はプライベートでは、フィアンセである大学時代の空手部の先輩で刑事の徹也との微妙な関係に気をもんでいた。そんな彼女の扱った案件の中で、内部情報を提供してくれた男性が自殺する悲劇が発生。傷心の白熊だが、彼女の前に新たな案件が発生し、一方で職場は27歳のヤングエリート係長・小勝負勉を仲間に迎えるが。

 昨年の処女長編で話題作、早くもテレビドラマ化もされた『元彼の遺言状』。その作者、新川帆立による新シリーズの第一弾。こちらも早くもドラマ化され、さらに数ヶ月を経て続編も刊行されている。

 精力的に著作を上梓する活躍ぶりと、帰国子女で東大出の弁護士(今は作家専業)、まだアラサー、でももともと少女時代から小説家を志望していたという作者。その勇名は、黙っていてもなんとなくウワサで聞こえてきていたが、評者が実作を読むのはこれが初めて。
 社会のあちこちに潜む不正を取り締まる立場にはあるが、基本はあくまで一般的な役所の範疇にあり、同じ公務員でも警察や厚生省・麻薬取締官のような捜査権限を持たない組織・公正取引委員会の奮戦と苦闘をリアルに描く職場もののミステリ。
 法規と組織のシステム上、どうしても巨悪に対して強い立場に出られない一面もあり、それだけに悪事の立証に関しては独自の密な調査と戦略を要されるようで、そこも大きな楽しみどころ。
 一方で主人公である白熊の婚約者や家族との、そして新任のバディともなるもうひとりの(準)主人公格・小勝負との距離感も、ストーリーのポイントとなる。

 ミステリ要素は、全体に浅く、時に要所を抑えて広めに散りばめられた感じだが、いかにも才女が書いた器用な作品という印象で登場人物の配置が絶妙。文字通り、当人の立場や善性悪性を二転三転させる複数のキャラクターはなかなか印象的な造形だ。
(一方で、一部の登場人物をこの上なく割り切って物語の駒として使う作劇に、良くも悪くもドライな作風を感じたりもしたが、これ自体はまあ……。)
 なお当然のごとく、現実の社会のなかでの職業全般についてのモラリティのありようにも目が向けられ、作者は規範と理想を謳いながらも、一方で柔軟な考え方も見せている。この辺もまあ、なんというか良くも悪くも敵を作らないように計算されている印象だ。

 ひと晩、フツーに楽しめたが、やはり良くも悪くも、今風の優等生的なエンターテインメントという触感も強い一冊。
 シリーズの今後も読めば相応に楽しめそうな期待値はあるが、一方でほかにもっと面白そうな作品や話題作が、同時期または自分の周辺にあれば、そっちを優先しちゃうような感じと言うか。 

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