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ミステリの祭典

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平凡すぎて殺される
「ダブリン・トリロジー」サーガ

作家 クイーム・マクドネル
出版日2022年02月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 8点 YMY
(2023/08/07 22:20登録)
おかしさに溢れたドタバタ模様が展開するミステリ。
ダブリンに暮らす青年ポールは、ボランティアで病院を訪れ、自分を息子や甥だと思い込む老人患者たちの相手をしていた。だがある日、末期がんの老人が錯乱し、ナイフで襲いかかってきた。ポールを誰かと勘違いしたようだ。老人は亡くなったが、その後ポールは命を狙われる羽目になる。
看護師ブリジットや中年刑事バニーらと、言葉遊びから映画や音楽のネタまで、丁々発止でギャグが繰り広げられ、楽しませてくれる。コメディ好きな方におすすめする。

No.1 8点 人並由真
(2022/08/02 15:53登録)
(ネタバレなし)
 英国のダブリン市。ボランティアで、複数のホスピスで耄碌した老人患者たちと対面し、彼らが会いたい親族や知人のふりをして相手の心に安らぎを与える活動をしている28歳の青年ポール・マルクローン。そんなポールはある日、ある病院でマーティン・ブラウンなる末期ガンの老患者から、予想もしていなかった別人と認識され、刃物で刺される。その直後、ブラウン老人は病死するが、実は彼は暗黒街の殺し屋ジャッキー・マクネアの変名であり、30年前に起きた大富豪の新妻とハンサムなギャング青年の失踪(駆け落ち?)事件の関係者だったことが判明した。ブラウン(マクネア)老人の死の際に、彼が最後にポールに何かを言い遺したのではないか? そう思った(?)何者かがポールの命を狙い始めた。
 
 2016年の英国作品。当時、テレビのコメディアンで脚本家でもあった作者の、デビュー長編。
 翻訳者の方が原書で読んでこれは面白いと判断し、東京創元社に営業をかけて翻訳にこぎつけたユーモア・サスペンス・ミステリ。
 ポールと、彼にブラウン老人の世話を願い出た30歳の可愛い看護師ブリジット・コンロイ(ポールを妙な事態に呼び込んだ責任の一端を感じてる)がコンビを組み、謎の敵(中盤で黒幕の正体はわかる)から町中を逃げまくる。一方で警察側の複数の捜査陣ももう一系列のメインキャラクターとなって物語が進行する。さらに最後までストーリーの奥には、ある大きな謎が潜んでいる。

 ウェストレイクかエヴァン・ハンターのクライムサスペンスコメディを思わせるような内容で、いくつかのデティルを除いて、あまり評者の思うイギリス作品っぽさはない。そのまま舞台をニューヨークに転じてもまったく普通に成立しそうな内容だ(それだけ、20~21世紀における、英国内でのダブリンという都市の独特の個性が語られているとも、いえるが)。

 文庫版で500ページ近く。このタイプの物語としてはかなり厚めだが、主人公ポールとブリジットも、また捜査陣側もそれぞれ思いつく限りのできることをやりまくる感じで、描写にムダはない。しかもそれぞれのシーンや局面に大小の見せ場を設ける作法なので、長いストーリーながら普通以上に面白く読める。
(脇役ではポールの友人フィル・ネリスの養母で、ポールとも付き合いの長い暗黒街の中堅ボス的な女丈夫リン・ネリス、そしてポールを匿う80歳代の女性ガンマン、ドロシー・グレアムが特にステキ。ほかにも魅力的かつ印象的なキャラクターが続々と登場する。)

 例えればグラム数の多めな厚焼きハンバーグのような作品。先に書いたウェストレイクかハンターのような題材を、フォーサイスや初期カッスラーのようなボリューム感で綴った手ごたえ。

 Amazonのレビューを読むと「面白かった」「読みにくかった」と毀誉褒貶(ホメる前者の方がいくらか多い?)だが、それもさもありなん、という感慨である。評者は普通にとても面白かった。
(なお後半~終盤は、デティルや真相の説明が、結構省略されたところもあるが、まあ作者の方で出した暗示的な叙述をもとに、読み手の想像で補えるものも多いとも思う。)

 しかし驚いたのは(これは書いてもいいと思うが)、作品の内容から一本きりのユーモアサスペンス、単発作品と思ったのに、原書ではしっかりシリーズ化。さらに某メインキャラの活躍図を枝分かれ的に派生させて語るスピンオフシリーズまで出ているそうで、これは翻訳でも続刊が楽しみ。
 かなり馬力のある作家のようなので、今後の作品内外の展開に期待したい。

【追記】
 人物一覧リストを作っていて、原語そのままか、カタカナ表記の事情か、同じファーストネームのキャラ同士が多く出過ぎるのが気になった。
・ゲリー(暗黒街の大物/警察の鑑識)
・ジャネット(主人公の母/警察副長官の秘書)
・ミッキー(ミック)(配達人/殺し屋)
……まだあったかも。登場人物が60人強で、そんなに特殊な名前でないので作中でネーミングがダブるのは、ある種のリアルと言えばリアルだが、一方でその辺は作者のさじ加減で調整し、読み手が無駄なストレスを感じないようにしてもよいとは思う。それともこーゆーのは、悪い意味で、こちらがこだわりすぎか?(苦笑)

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