home

ミステリの祭典

login
情無連盟の殺人
共著:眞庵

作家 浅ノ宮遼
出版日2022年07月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2022/10/01 15:09登録)
(ネタバレなし)
「おれ」こと元・麻酔科医で、現在は献血センターの医療医師として働く32歳の伝城(でんじょう)英二は、徐々に感情が失われ、たとえば美しいものを見て素晴らしいと思ったり、不愉快なことに怒る感覚がなくなった。それは1980年代から全世界で発症例が見られる現代の不治の奇病「アエルズ」のためだった。そんな感情をほぼ失いかけた伝城に一人の女・佐川樹が接触。伝城を千葉の一角にある、アエルズ患者のための共同生活コミュニティ「情無(じょうなし)連盟」に誘い込む。だがそこで、いろいろな意味で不可解な一種の密室殺人といえる犯罪が発生する。

 先に単独で二冊の著作があるミステリ作家で現役の医者でもある浅ノ宮遼が、学友で創作協力者の眞庵とともに、共著の形で書いた今年の新作長編。作者紹介を覗くと、今後はこの共作体制で行くらしい?

 いかにももっともらしい?が、現実には存在しない奇病「アエルズ」に罹患した登場人物たちの間で起きる不可能犯罪(殺人)を題材にした、いまはやりの特殊設定ものパズラー。
 その物語はミステリの核心に踏み込む前に、専門職の現役医師による医学界や種々の病理に言及した情報小説的な側面もあってなかなか興味深い。実際のところはどのくらい正確なのかは知らないが、評者はとりあえず、架空の病気アエルズに関する部分以外はおおむねホントなんだろ? と信頼を預けながら語られる情報を読んだ。
 
 感情を失った人間がどのように生きて生活するかというと、衝動的、情感的な行動が極力、排されて、ひたすら合理的な行為ばかりをするようになる。わかりやすく言うなら、病気にかかる前は爬虫類が嫌いで蛇を見るのも嫌だった人間が、このアエルズに罹患すると、それしかタンパク質を摂取する手段がないとするなら、平然とそのヘビを特に嫌悪感もなく食べられるようになる、評者の解釈を交えて言うなら、そんな感じであろう。

 で、このアエルズ患者の生理とモノの考え方が謎解きミステリ部分に関わってくる。評者はこの特殊設定の先にあるのであろう謎解きをアレコレ予期したが、ある部分では期待ハズレな一方、別の意味合いでとんでもないロジックを読まされもした。
 かように思っていたものと違う面もあったが、「なぜ(中略)は殺されたか?」と驚愕ものの真相など、とにかく面白いものは面白い(ただし……)。

 こってりした作りで、縦横無尽に組み立てられたロジックの綾についていくのがキビしい部分もなきにしもあらずだが、先の得点部分をはじめとしてけっこうな満足感はある。
 連続殺人で容疑者の頭数が減じていき、フーダニットの効果が弱くなるというジャンルものパズラーの構造的弱点に一石を投じたような展開も興味深い。
 今年のベスト5内は無理でも、6~15位あたりのどっかには名前を連ねておきたい力作。 

No.1 5点 虫暮部
(2022/09/01 12:21登録)
 行動の動機に関する部分は設定が生かされており、思いがけない結論に膝を打った。
 犯人当て部分は今一つ。ロジックとしては成立しているかもしれないが、説明されてもスカッとしなかった。

 第五章。“そっくりな別のナイフだった可能性はないの?――非常に特徴的なデザインだから、見間違いようはない”。
 コレは全然根拠になっていないよね。寧ろ、同じデザインのナイフが二本あったら混同した可能性はある、と言っているように思う。

2レコード表示中です 書評