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ミステリの祭典

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塩の湿地に消えゆく前に

作家 ケイトリン・マレン
出版日2022年01月
平均点4.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2022/07/18 15:28登録)
(ネタバレなし)
 アメリカ東海岸のアトランティックシティ。かつてカジノと観光で栄えた同地は、21世紀になって国のカジノ産業への支援策が大きく減退し、今は雇用も不順な貧しい街になっていた。そこで微弱な? 千里眼と透視能力を持つ十代半ばの高校中退少女エヴァは「クララ・ヴォワイヤン(クレアボヤンス=透視能力からのネーミング)」の名前で、育ての親である叔母デズミナ(デズ)のもとで、流行らない占い師稼業を営んでいた。そこにある日、失踪した姪を探してほしいと、ひとりの男がやってくる。

 2020年のアメリカ作品。
 どことなくトマス・H・クックを思わせる? 邦題と、ポケミス裏表紙のMWA最優秀新人賞受賞作というキャッチが気になって手に取った。
(そうしたらまだ積読のうちに、HORNETさんの酷評が先に目につき、これは……と違う意味で興味をそそられたりする・笑&汗。)

 で、読んでみたが、個人的にはそれなりに波長が合ったのか、一晩でほぼ一気に読了。

 冒頭から、すでに殺されてシティの湿地に沈められたらしい女性の被害者たちの霊魂の視点っぽい、グルーミーな雰囲気のプロローグで開幕。さらにふたりの主人公の内のひとりクララの超能力設定からして、これはスタンダードな謎解きミステリではないと読み手に主張してくるような作品である。

 とはいえ物語の舞台となるシティ全体を覆う不況のグレイムード、そのなかであがくクララともう一人の主人公リリー(もともと芸術関係の仕事で身を立てようとニューヨークで奮闘していたものの、訳ありで挫折。今は生活のためにシティのカジノのスパで受け付けほかの事務職についている)の粘着的な描写にグイグイと引き込まれていく。
 さらにこの二人の主人公の描写の合間に、どんどん作中で数を増していく被害者たち死者のパートや、さらに第三のキーパーソンといえるとある登場人物の叙述も意味ありげに挿入され、作品全体の奇妙な立体感と構築感は並々ならない。
 
 何より本作の主題となるのは、国策、地方行政、それら双方の錯誤の累乗で財政的に破綻した地方都市の息苦しさ、重苦しさだ。
 それは図書館で、専門分野の研究者の常勤などが不可能になり、市民サービスが低下していく辺りにも見出せる。
(正直、近年の日本そのものだね。)

 小説全体のヘビィな手ごたえが独特の魅力を放つ作品であったが、一方でミステリ(謎解き作品)としては相応にブロークンな作り。この終盤は、本作ではマトモな決着をつけたら負けだと作者が考えたのかもしれない? 
 怒る人は怒るだろうし、いやむしろ、そういう反応が当たり前でもあるのだが、一方で本作のようなタイプの作品には、こういう仕上がりが確かに合っているように思えたりもする。

 万人にお勧めできる作品では決してないし、先のHORNETさんのお怒りもとてもよくわかるような気がするが、もしかしたら現在形のアメリカミステリ文化の広がりをちょっとばかり実感できる一冊じゃないかな、という感じもしないでもない。
 個人的には、読んでおいて良かったとは思う。

No.1 2点 HORNET
(2022/06/05 20:16登録)
 猟奇的で思わせぶりな冒頭から期待したのだが…
 とにかく合わなかった。読みづらい。分かりにくい(というか、分からない)。それっぽい感じの描写がうるさいうえに、もったいぶった描き方で何がどう進行しているのかとても分かりづらい。
 読み始めた以上、読了しないと…という思いのみでページを繰り続けたが、正直苦痛だった。
 真相もよく分からない。結局、誰が犯人だったのか、明記されていないから分からない。
 合わなかった。

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