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ミステリの祭典

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ルームメイトと謎解きを

作家 楠谷佑
出版日2022年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/06/04 06:11登録)
(ネタバレなし)
 埼玉県北部にある、全寮制で中高一貫の男子校「霧森学院」。その一角にある老朽化した学生寮「あすなろ館」の住人の一人で、高校二年生の「オレ」こと兎川雛太(とがわひなた)は、同室の寮生に転入生の鷹宮笑愛(たかみやえちか)を迎える。空手部で陽性の性格の雛太は、秀才で美青年だが他人と距離を置き、一方で動物を偏愛する笑愛と当初はなかなかなじめないが、とある出来事を機に、互いに奇妙な友情を感じ合うようになった。そんななか、学院内の敷地で広義の密室状況といえる殺人事件が発生。そしてその事件について、昨年、あすなろ館で起きたある悲劇との関連が取りざたされる。

 評判がいいので読んでみた、今年の新刊でフーダニットパズラーの青春ミステリ。

 明確に描き分けられた登場人物やロケーションのくっきり感など、青春ミステリとしては十分な瑞々しさ。
 まあ設定的には、たぶんBL的な興趣も送り手(作者、編集、営業)の視野に入ってはいるのだろうが、ことさらそれを売りにするようなあざとさもない(サブキャラクターとして、ちゃんと女性キャラも登場する世界観である)。そういう意味では最後まで楽しく読めた。

 フーダニットとしては正直、犯人はすぐ分かるが、一方でとあるポイントで読者をミスリードする手際は、なかなかしたたか。まあこれは、あまり書かない方がいい。

 それ以上に本作の白眉といえるポイントは、終盤で容疑者を絞り込んでいくロジックの組み立て方で、一部に強引な感もあるものの、そのパワフルさはなかなかの快感である。
 評者はこの作者の作品に触れるのは初めてだが、本サイトで著者の別作品を語ったメルカトルさんのレビューによると、EQのファンだとのこと。そう聞けば、消去法のロジックに対する偏向のほどは、なるほどと思える。
 
 前述のとおり犯人がバレバレな分、その辺で高評価はしにくいが、逆に言うとそこ以外の面では、ストーリーもキャラクターも、推理ロジックもミスディレクションも、それぞれ結構な出来ではある。

 読後、もう一度いつかまた、この登場人物たちに会いたいとも思ったが、たぶん設定的には単発作品となることだろう。アマチュア探偵たちが青春の刹那、人生の中で関わり合った一度だけの大事件という文芸の方が、たしかによく似合う内容でもある。
 佳作~秀作の領域のなかで、好編という言葉が似合う作品。

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