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ミステリの祭典

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盗作の風景

作家 笹沢左保
出版日1983年10月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 蟷螂の斧
(2022/06/12 10:22登録)
題名の盗作が主題ではありません。アリバイトリックものですね。容疑者の目撃者である人物が、主人公に協力して事件解決に向かうのですが、その人物の心象がよく理解できませんでした。非常に重要なポイントであり、ラストで説明があると思っていたら無し!!!(苦笑)。プロットが面白かっただけに惜しいです。

No.1 8点 人並由真
(2022/05/28 06:39登録)
(ネタバレなし)
 インスタント・ラーメンとカレーの製造販売で全国的に知られる大手の食品メーカー「白金食品」。だがその社主である壮年・江原庄吉郎には、十数年前に競輪に狂い、友人の大学教授・能坂明治(あきはる)から多額の詐偽を働いた秘めた過去があった。友人を信じて大学の公金を横領した明治は、自殺。能坂家は明治の息子で現在28歳の青年・魚男(うおお)を遺して死に絶えたという。3年間の服役と釈放を経て社会復帰し、実業家として大成功した現在の庄吉郎。だが情報を得た魚男は罪の償いを済ませた庄吉郎に対し、呪詛の文句を書き連ねた文書を送ってきた。父の過去を初めて知った庄吉郎の美しい23歳の娘・麻知子は独自の判断で魚男に会いに赴き、一流企業の社主の穢れた過去を暴露すると息巻く相手の慈悲にすがろうとする。だがそんななか、白金食品の周辺で殺人事件が発生。その容疑者となった庄吉郎は、自分のアリバイを証明する人物として、こともあろうにあの能坂魚男の名を挙げるが。

 推理小説専門誌「宝石」の昭和38年5月号から翌年2月号にかけて連載された長編。連載当時は「(この作品の)覆面作家は誰でしょう」と作者名を秘して連載する企画ものだったようで、読者から作者当ての多数の推理(応募ハガキ)が寄せられたそうである。当時、読者が一番名前を挙げた作家は清張で、二番目が本命のこの笹沢だったらしい。
 さらに本作は、1964年度のミステリファンサークル「SRの会」のベスト投票の国産部門で、あの『虚無への供物』に次いで、堂々の二位を獲得! この実績だけでも以前から評者の関心を刺激していた作品だが、このたびようやっと読んだ。
(なお最初の元版書籍は1964年に刊行のカッパ・ノベルスらしいが、現状ではAmazonの登録にない。評者は今回、角川文庫版で読了。)

 物語は最初から最後まで、父の無実を晴らそうと奔走する主人公・江原麻知子の三人称一視点でほぼ全編が語られるが、二転三転するストーリーは強烈な疾走感。一方で題名「盗作の風景」のキーワード「盗作」の含意がなかなか見えてこない焦れったさも、良い感触で読み手のテンションを煽る。
(さらに言うと、具体的にどこがどうとかは書けないけれど、ほかの新旧の笹沢作品にありがちな作劇を、作者が意識的にコントロールしている気配もとても良い。)

 でもって終盤に明らかになる意外な犯人、事件の構造、そしてタイトルの意味!
 ……いや、この三連打の果ての余韻が、期待以上、予想以上に面白かった、良かった。
 間違いなく、これまで30~40数作品読んできた笹沢長編作品のベスト3に入る優秀作。
 まあ細かいことを言えば、(中略)のとある行動など、犯人側の想定的に予期できるものだったのかな? とかの疑問もないではないが、その辺はヘリクツをつけてギリギリ、フォローできそう。いずれにしろトータルとしての得点ぶりでは、十二分にお腹いっぱいである。

 ちなみに麻知子を軸に数人の若い男性キャラクターが出てくるが、それらのキャラのひとりひとりに二枚目俳優をキャスティングしたら、かなり見栄えのする全4~6回くらいの連続1時間ドラマができそうな感じ。往年の『火曜日の女』(『土曜日の女』)にはもってこいの原作だったな、コレは。知っている限り、映像化はされたことはないと思うけれど、見落としがあるかもしれない。さすがにあまり古い番組は知らないし。
 実際、終盤でフィーチャーされるとある「風景」は、本当に画になるんだよね。昭和のこの時代設定のままで、21世紀の今からでも新作ドラマとかにしてくれたら、結構いいものが作れるかも。

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