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ミステリの祭典

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英国屋敷の二通の遺書
ハリス・アスレヤシリーズ

作家 R・V・ラーム
出版日2022年03月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2022/05/24 17:23登録)
(ネタバレなし)
 インド南方の避暑地ウーティの近隣に立つ旧館グレイブルック荘。そこは植民時代の英国人が建国したが、代々の当主は呪いを受けて死亡するという伝承がある屋敷だ。現在の主人バスカー・フェルナンデスは親族思いの65歳の富豪だが、最近、周辺に怪事が発生。身の危険を感じた彼は、自分が自然死した場合と、死因に不審があった場合、そのふたつの状況を想定して、二種類の遺書を作成し、その作成事実を公表した。それは謎の殺人者? が周囲にいた場合、後者の遺書の存在で牽制を図るためだ。同時にバスカーは、元警察官で、引退後も名探偵として名を馳せたハリス・アスレヤを招待。周囲の事件性を探らせるが、やがて屋敷内では予期せぬ状況で殺人が生じる。

 2019年のインド作品。
 設定は確かに21世紀のインドなのだが(電子メールなどのツールも出てくる)、内容はトラディショナルなカントリーハウスものの英国ミステリを思わせる謎解きパズラー。
 旧作ばかり読みがちな評者なので少しは新作もと思い、手にした一冊だが、予想以上に面白く、一晩で読了してしまった(おかげでいまだに、うっすら眠い)。

 会話が多くリーダビリティの高い本文も敷居が低いが、適度な頭数の登場人物(主要人物はカウントの仕方にもよるが、13人)もくっきり描き分けられ、小規模のイベントの見せ方も好いペースで進展する。
 作中の犯罪に良くも悪くもある種の立体感があり、ちょっとばかり煩雑さを感じさせるのはナンだが、脇の方の事件と本筋の犯罪の絡ませ方はぎりぎりのところでうまい具合に整理されており、最終的にはさほどややこしさは感じないで読み終えた。

 で、秘められていた過去のかなり大きな事実の露呈が、某キャラクターの述懐でほぼ片づけられてしまうのは、nukkamさんのおっしゃるように、ちょっとモヤるところはあった。
 ただまあ英国の黄金時代のあの名作? だってアレだったと思えば、個人的にはギリギリ許したい。

 というか本当に評者がモヤったのは真犯人の方で「小説的な(中略)を作者が狙っているなら、コイツだろ」と勘で見当をつけていたら、正にドンピシャであった(笑)。
 しかし当てずっぽうで正解しといてなんだけど、もうちょっと伏線や手掛かりの布石が欲しかったというのもnukkamさんに全く同感。こーゆー、カンや小説的な技法の読みで犯人を当てるという裏技(?)をしたときには、「え、あれも伏線だったの?! ガピーン!」となってこそ快感ではあるので(笑)。

 とかなんとかアレコレほざきつつ、全体的にはかなり楽しい新作海外パズラーではあった。シリーズ二作目も、今から楽しみにしております。

No.1 5点 nukkam
(2022/03/30 00:32登録)
(ネタバレなしです) インド生まれのR・V・ラームは2014年に作家デビューしてスリラー小説を書いていましたが、2019年発表のハリス・アスレヤシリーズ第1作の本書は本格派推理小説です。創元推理文庫版で「英国犯人当てミステリの香気漂う」と宣伝されていますが、まるで二つの世界大戦の間の本格派黄金時代ミステリーを彷彿させるようなプロットが私の好みにばっちり合いました。派手なキャラクターではありませんが、いかにも名探偵の雰囲気を漂わせているアスレヤがいい味を出しています。終盤近くまでは本格派好き読者の期待に応える展開を楽しめましたが複雑な真相の解明が自白に頼った部分が多く、手掛かりの説明が十分でないように思えたのが惜しまれます。

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