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ミステリの祭典

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償いの流儀
西澤奈美

作家 神護かずみ
出版日2020年08月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 HORNET
(2022/07/11 19:20登録)
 最愛の恋人・雪江と師を続けて亡くした西澤奈美は心の整理がつかず空虚な日々を送っていた。そんな彼女が親しみを寄せるタバコ屋の上井久子がオレオレ詐欺に遭う。久子を慰める術を持たない奈美だったが、自分が入居する雑居ビルのオーナーから隣のビルに入った怪しげな会社が詐欺集団ではないかという見立てを聞き、密かに証拠をつかみ匿名で警察に通報する。しかしその後、逮捕を逃れた残党の影がちらつき、たびたび襲撃を受けるように。
 奈美は、彼女が育った児童養護施設の後輩で雪江を慕っていたという松井の協力を得て久子を騙した犯人を突き止め、ついには自ら拉致されて敵地に辿り着くという無謀な賭けに出る……。(Amazon紹介文引用)

 工作員ばりの手腕を持つ西沢奈美と敵との、高度なやりあいが見もの。黒幕ははっきり言って完全に予想通りだったが、活劇として非常に魅力的なので不満はない。
 前作を読んでずいぶん時間がたっていたから、シリーズという認識がなかったが、おぼろげな記憶でいうなら前作よりも良い気がする。

No.1 7点 人並由真
(2021/12/09 14:41登録)
(ネタバレなし)
 その年の10月。都内の大久保に在住の「わたし」こと30代半ばのトラブルシューター、西澤奈美は、いまだ数か月前の事件を心に留めていた。そんななか、馴染みの近所のタバコ屋「角屋」のおばあちゃん、上井久子が長年かけて蓄えた貯金350万円をオレオレ詐欺によって騙し取られる。奈美は老婆を不憫がるが、その一方で自分が入居するマンション「メゾン・ヒラタ」の大家兼管理人の平田から、近所に不審な人物がいるとの情報を得た。関心を深めた奈美が独自に調査すると、近所の会社「MTMプランニング」が実態はオレオレ詐欺一味の組織と判明。奈美は警察に通報して一味は逮捕されるが、前線での主犯の一人らしき男が逃亡。やがて奈美に詐欺グループの背後組織らしきものの報復が始まる。

 乱歩賞受賞作『ノワールをまとう女』に続く西澤奈美主役編の第二弾。期待通りにシリーズ化された。

 やや錯綜した内容の前作に比してプロットはいくらかシンプルになったが、長くシリーズを続けていくならば、こういう緩急のつけ方の方がよいだろう。雰囲気的には良い意味で、生島治郎あたりの昭和の国産ハードボイルド主人公のアップトゥデイト的な感触がある。
 そのノリで前半はスラスラ読めるが、後半、自分を囮に敵側との勝負をかけるつもりの奈美が、自分の予想を上回る犯罪者一味の手際に圧されていくあたりになると結構な緊張感。終盤の(中略)も含めて、最終的には本作もこれはこれで読みごたえがあった、という気分である。

 なお和製ハードボイルドとしての文体もオーソドックスというか、この手のものとしてのトラディショナルな感じなのだが、本作の場合は、これでいい。
 調査のために必要なこととして奈美が特に悪人でもない事件の関係者に接触し、相手を欺いて情報を得るくだりがあり、その結果、騙されたと気づいた先方の心を傷つけてしまう。そのあとの奈美の内面のモノローグが
 
 痛みなどない。似たような場面は、数えきれないほど体験してきた。
 コーヒーに手を伸ばしかけて、止めた。
 どうせ、苦い味に決まっている。

 うん、和製ハードボイルドはこれでいい。
 総てこれでいい、とは絶対に言わないし、それこそこちらも数え切れないほど、こういう叙述には出会ってきたが。

 あと本作ではひとり気になる新キャラクターが登場。このまま奈美シリーズのレギュラーになるか、はたまた同じ作品世界観でスピンオフの主人公でも今後務めさせるか? という感じであった。その辺の興味も込めて、作者の次の作品も見守りたい。

 最後に、本書を読む前に半ば成り行きでwebで作者・神護先生のインタビューを拝見。いい年をしたおじさん(失礼)が、私は女戦士萌えで、とか語っていて、思わずふきだした。ユカイなオッチャンのようで。

【2021年12月11日追記】
 大事な事を書くのを忘れていた。本作の随所でシリーズ第一作『ノワール~』の結末が遠慮なく明かされるので、本シリーズに興味のある方は絶対にそちらから読んでください。第一作の興味を半減させていいこと前提なら、本作から読んでも、この第二作そのものを楽しむこと自体には、特に問題はないと思いますが。

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