箱男 |
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作家 | 安部公房 |
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出版日 | 1973年03月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2024/05/30 20:18登録) 高校生くらいの時には安部公房っていえば純文学のスターだったわけだから、評者だってそこそこ読んでたんだが...いや見事にハマらなかった(苦笑)評者「意識高い」に代表されるような「カッコよさ」って苦手なんだね。本作とかピント甘目の写真が入って(ピンホールカメラじゃない?)見るからにアーティスティックでオシャレなんだよね。そんな評者の偏好の犠牲になった作家のように感じるよ。 ここは「ミステリの祭典」という場なんだから、「箱男」のまさにアイデンティティである「箱」を一つの密室として再構成するのも一興だろう。だから本作は「密室殺人」を扱ったミステリなんだ。 「暗い箱」の中には。ピンホールカメラの原理によって、外界が写り込む。これはまさに「意識」そのものなのだ。人間は皆「自己」の中に閉じ込められた「箱男」だ。その「箱男」の殺人事件とは、「ぼく殺しの主犯はあくまでぼく」、しかしそれは自殺ではない「自分殺し」の「殺人」なのである。 自殺ではないからこそ、「そしてぼくは死んでしまう」と他者視点でヌケヌケと書けるのだ。それでもこの意識というこの「箱」に出入りした「他者」は存在しない.... しかしだ、箱男の「箱」の中にあるもの、というのは紛れもない即物的な身体なのだ。この箱の中の身体から、自我であるとか意識であるとか、アイデンティティが「殺され」て雲散霧消した結果なのでもある。いやね評者は初めてカプセルホテルに投宿した際に、ひどく感動したんだよね。自分というの「もの」があり、この「もの」の容器としての「箱」がある。アカラサマなこの事実が「自分はモノになれる!」ことを評者に突きつけたんだ。これが「死」でなくて何だろう? カプセルホテルに泊まり給え。あなたも「箱男」になれる。「箱男」とは、このような意識と身体の葛藤と、その出口の寓話なのだ。 |
No.1 | 7点 | 虫暮部 | |
(2021/10/09 13:14登録) “箱男”なる或る種冗談のような存在が、いつの間にか錯綜した叙述トリックへ。但しミステリ的な整合性は一時だけで瓦解し、無関係なエピソード(落書?)の“D”や“ショパン”が挿入されるあたりはイライラしたな~。 ミステリ側の視点で言えば、安部公房みたいな作家が変格ものを目指した(ように見える)のは妥当な展開だと思うが、いたずらに判りづらくし過ぎ。やはり後半3分の1はもう少し読者に歩み寄って書いて欲しかったところ。 |