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ミステリの祭典

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ゴースト・レイクの秘密

作家 ケイト・ウィルヘルム
出版日1994年10月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 4点 YMY
(2021/08/28 23:16登録)
殺人事件のみならず、子供たちの問題までも解決しなければならない女性判事の心の葛藤は、少々くどいきらいはあるが、なかなかよく描かれている。
ただ、作中に使われているトリックの実効性については、多少首をかしげざるを得ない。

No.1 6点 人並由真
(2019/08/17 19:14登録)
(ネタバレなし)
 オレゴン州ペンドルトンの町。その年の5月。元弁護士の女性セアラ・ドレクスラーは、3年前に事故死した地方判事の夫ブレインに代って、彼の残りの任期3年間分の職務を引き継いでいた。セアラの実家であるケラーマン家では老父ラルフが、水族館と生け簀を経営。セアラの娘ウィニーと息子のマイケルもそれぞれの事情を抱えながら母や祖父との同居生活を送っていたが、ある日突然、そのラルフが女性私立探偵のフランシス・ドナティオを自宅に呼び寄せた。事情も分からずに戸惑うセアラと子供たちだが、フランシスはケラーマン家からの帰途、何者かによって射殺される。これと前後して依頼人のラルフ当人も、何の調査を探偵に依頼しようとしたのか家族に明かさないまま急死した。やがて事件は、数十年前に近所の砂岩地帯「ゴースト・レイク」ことラビット・レイクの周辺で起きた怪事へと繋がっていく。

 1993年のアメリカ作品。作者ケイト・ウイルヘルム(ケイト・ウィルヘイム)はヒューゴー賞、ジュピター賞、ネビュラ賞などの栄冠に輝く女流SF作家として日本でも高名。翻訳された長編作品は決して多くないが、代表作と言われるサンリオ文庫の『鳥の歌いまは絶え』など相応にSFファンに読まれているという認識がある(ごく私的な話題ではあるが、友人にすごく本作をスキな人間がいる。しかしながら評者は未読~汗~)。
 プロパーとしてはSFジャンルを主体に活躍する作家だが、アシモフやブラッドベリなどと同様に純粋なミステリとしての著作もそれなりに多く、本書はそんな中の一冊となる。
 
 46歳の未亡人である主人公セアラの、亡き夫の職務を継承した女性判事としての司法ドラマ(裁判シーンの類はほとんどないが)、ケラーマン家とその親族たちや周辺の者たちとの家族ドラマ、さらに南米に近い国境周辺の町を舞台にしたローカルドラマと複数の主題を織り込みながら、ミステリの興味としては、殺人事件のフーダニット、いったい老父ラルフの依頼の内容は? の謎、さらに1960年代にまで遡る過去の怪事件と幽霊騒ぎの真実……とかなり立体的な品揃えを披露する。
(私立探偵フランシスの元カレ? にしてバツイチの中年刑事アーサー・フェルナンデスと、主人公のセアラとの互いに腹の内を探り合うようなオトナの恋模様もなかなか楽しい。)
 具の数が多い分だけ下手な作家ならゴタゴタする作りになりそうなところ、最初にページを開いてから終盤まで実にスムーズに読ませてしまう手際は鮮やか。
 翻訳を担当した竹内和世(ほかにはC・W・ニコルの作品など多数担当)の訳文も全体的に平明かつメリハリが効いていていい。

 ミステリとしては30年前の事件のその後の軌跡に疑義があったり(この辺はあんまり書けないが)、動機の真相が意外に凡庸だったりするのはやや失点。主人公セアラの終盤の行動も、見方によってはいささかダブルスタンダードではないの……という部分もないではない。
 まあそのクライマックスのセアラの内面に関しては、自分に正直にあろうとした面と、司法家としての正義を守ろうとしたことの振幅を、作者も意識的に綴りたかった向きも見とれるが(かなり最後の方の、とある登場人物への厳しくも切ない姿勢での対峙の図は、真っ当なハードボイルドの精神だと思う)。
 ミステリとしての練り上げは若干甘い感じもしないでもないが、骨太な筆力でいっきに読ませる佳作。

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