逆光のブルース |
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作家 | 黒木曜之助 |
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出版日 | 1977年11月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | nukkam | |
(2023/09/09 19:46登録) (ネタバレなしです) 新聞記者出身で1967年に社会派推理小説家としてデビューした黒木曜之助(1928年生まれ)が1970年に発表した本書は桃園書房新書版では本格派推理小説と紹介されていました。演奏中にエキサイトすると意識を失ってステージに卒倒してしまうことで有名な音楽バンドのリードヴォーカルが、武道館でのコンサートで前のめりに倒れてしまいます。警備中の刑事は演出だと思ってましたが実は毒殺されていました。誰がどのようにして殺したのか、有力な容疑者が次々と浮かび上がっては反証のために逮捕にまで至れない展開の連続で読ませる作品です。原爆の被爆者が抱える問題が語られるなど社会派推理小説的な要素もあります。最後のどんでん返しは伏線らしい伏線がなく、唐突で後出し感の強い謎解きになっているのは残念です。 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | |
(2021/08/27 05:50登録) (ネタバレなし) グループサウンズブームに、全国の若者が熱狂する昭和43年。3月15日、日本武道館のステージ上で、当代最高の人気を集めているグループ「ザ・サイケデリックス」のリードボーカル「サニー」こと旗京太郎が横転する。かねてより壇上でエキサイトしたまま失神する芸風が売り物の「失神歌手」サニーは、今回も同じ趣向で会場を沸かせたかに思えたが、その直後、実は何者かによって毒殺されていたことが分かる! 所轄の老刑事・中島部長刑事と、かつて学生時代にミュージシャンだった30歳前後の白石刑事はこの事件を追うが、彼らの前には続々と、殺人の動機を秘めた容疑者が順々に浮上してくる。 元版は桃園書房から1970年12月に刊行。評者は今回、77年発売の春陽文庫版で読了。 少し前にさる理由から1970年代の「SRマンスリー」バックナンバーをひっくり返して眺めていたら、70年代半ばに本作の作者・黒木曜之助のインタビュー記事が掲載されているのを改めて意識する。先日『ポルノ殺人事件』を読んだこともあり、気になってしっかり読み返してみると、当該のインタビューの中で、作者自身が自信作めいた物言いで語っていた自作が他ならぬこれ。 大人気の5人組グループサウンズ、その主力メンバーが死亡し、容疑が次々と仲間のメンバーにかけられていくが(中略)、そしてさらに……、と、なかなか面白そうに自作の趣向を述懐しており「ふむふむ、それは確かになかなか良さげ……?」と思わされた。 現時点のAmazonには文庫版のみ古書が販売されており、値段もそんなには高くないので、取り寄せて購入。それからひと月ほどした今夜、読んでみる。 先日、評者が読んだ『上を見るな』(島田一男)同様、この時期の春陽文庫は二段組の紙面レイアウトで、当初は若干の読みにくさを感じないでもなかった。が、本作は良い意味で、筆が軽い感じの文体で、すぐにその辺は気にならなくなる。 実際、物語の主題となるグループサウンズブーム、さらには同時代の学生運動やそのほかの昭和文化、風俗を交えながら、それでもあくまでストーリーは毒殺の機会と手段を探りながらのフーダニットパズラーとしてテンポよく進行。かなり面白い。 売りの趣向である容疑者の二転三転は、構造的に先に表に出てくる人物はダミーっぽいが、のちのちまた何かあるかもしれないので、気を許せない。一定以上のテンションを堅守しながら、主役の刑事たちの捜査が進展してゆく。 一方でかなり熱量の高い作者のメッセージも次第に伝わってくるが、物語の本筋が殺人事件の犯人捜しという軸はブレないので、安定感のある読みごたえは結構なもの。 黒木センセイ、今までどっか軽く見ていたけれど、その気になればちゃんと面白いもの書けるんだねえ。見直した。 まあそれでも読者サービスが先に立った終盤のサプライズというか(中略)など、いささか荒っぽい感触もあるんだけれど、一方で昭和の通俗(しかしエンターテインメントに徹した)フーダニットパズラー、こういうバーバリックな面白さでいいよ、とワクワクさせるものはある。 少なくとも、出来がいいか悪いかとは別の次元で、とても好感は抱けるし、愛せる謎解きミステリにはなっている。 傑作、優秀作、とまで断言はできないけれど、あまり口頭に上らない佳作~秀作なのは間違いないでしょう。 昭和ミステリ、まだまだ面白いものは、人知れず眠っているんだね。 評点は、期待以上のサービスぶりを評価して、0.5点オマケ。 |