ボニーとアボリジニの伝説 ナポレオン・ボナパルト警部 |
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作家 | アーサー・アップフィールド |
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出版日 | 2021年08月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | |
(2022/01/11 06:33登録) (ネタバレなし) 20世紀の初めに、西オーストラリアの北東部に落ちた隕石。それは「ルシファァーのカウチ」と呼ばれる巨大なリング状の突起した落下痕を地表に形成した。やがてそれから数十年が経ち、その落下痕の中の空間に、白人の男の他殺? 死体が発見される。オーストラリアのネイティヴ=アボリジニと英国系白人のハーフであるナポレオン・ボナパルト警部(ボニー)は、上層部から被害者の素性についての情報を伏せられたまま、現地の捜査に赴くのだが。 1962年のオーストラリア(英国?)作品。 アップフィールドのボニーものは、少年時代に、旧クライムクラブの『名探偵ナポレオン』とHM文庫版のどれか一冊(たしか『ボニーと警官殺し』だと思う)のみ読んだ覚えがある。前者は面白いようなそうでないような、後者はそれなりに面白かったような、そんな印象のみあるが、流石にそれぞれの内容は大筋も細部もまったく忘却の彼方だ。あ、後者のなにかの場面で、ボニーが「私は読書といえば、小説と漫画ばかりだった」とか語り、その一言に当時、相応のシンパシーを抱いたことだけは、覚えている(笑)。 それでHM文庫での3冊の刊行から、ほぼ40年目(正確には38年ぶり)の久々の本邦上陸、新訳のボニーシリーズということで懐旧の念も込めて読み出す。 いささか特殊なロケーションを前提にした物語は独特の味わいがあるが、ストーリーそのものはこなれた翻訳の良さもあって、ほとんどストレスを感じない。 主人公ボニーは事件現場である「ルシファァーのカウチ」の近隣にある「ディープクリーク牧場」に着目。そこの白人の牧場主カート・ブレナーに協力を求めて、彼の屋敷に逗留する。そしてブレナーの家族や同牧場で働くアボリジニの使用人たちと順当に交流を深めながら、事件の真実を探っていく。 混血の主人公のボニーからして白人とアボリジニの文明の仲介者的な側面があるが、さらに本作では、もともとはアボリジニの少女だったがブレナー家に養女に迎えられて西洋式の高い教育を受け、教職への道を志望する18歳の少女テッサがメインヒロインとして登場。彼女もまた二つの文明の橋渡し役だが、知的で陽性でほんのちょっとだけ小悪魔的なキャラクターが、本作に登場する十数人の登場人物たちの軸といえる存在になる。ブレナーの牧場で働く白人、アボリジニの若者たち数人が彼女に恋心を抱き、それゆえに絡み合う人間関係も、先の文化事情の摩擦などにも絡んで話の厚みを感じさせてゆく。 牧場の関係者や地元のアボリジニたちから証言をとりまくるボニー。そんな捜査の進展を追いかける筋運びは全体的に滑らかだが、山場のクライマックスでは、他の欧米の作家の作品ではあまりお目にかかれないような、本作ならではの風土と文明観・人間観を踏まえた見せ場が登場。若干、あっけにとられるが、まあその辺は、このシリーズらしい独特の趣向として楽しんだ。 (ちなみに、あっけらかんとした陽性のエロい場面が登場するのもよろしい~笑~。) そしてソンなインパクトのある見せ場のあと、さらに本題のミステリ部分の謎解きとして、事件の真相に迫ってゆく構成も本作のミソだ。 まあ本気で面白がるには、もっともっとこのシリーズにどっぷりと浸る構えをとってからの方がいい作品という気もするが、評者みたいに久々にむかし見知った名探偵キャラクターに再会する程度の軽い気分でも、それなり以上に楽しめた一冊である。 Twitterでの論創スタッフさんのコメントによると、もうしばらくこのシリーズをまた出してくれるそうなので、そちらも刊行されたらチェックはしてみよう。 いつもながら論創さん、こういう奇特なものの発掘・刊行を、本当にありがとうございます(笑)。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2021/12/12 22:21登録) (ネタバレなしです) アーサー・アップフィールド(1890-1964)晩年の1962年発表のボニー警部シリーズ第27作です。巨大なクレーターの中で発見された死体の事件を扱っていますが大自然描写はやや控え目です。とはいえアボリジニを大勢登場させて複雑な人間ドラマを形成させているところは十分に個性的な作品といえるでしょう。被害者の正体(登場人物リストには載ってません)が前もって把握されているにも関わらず捜査官のボニーには情報が伝えられていないという設定がかなり異様に映ります。まあそれだからボニーも自己流で事件処理しちゃうのですけど。犯人当てとか殺人動機とかはメインの謎でなく、どのような経緯で死体がクレーター内に出現したかの調査を謎解きの中心に据えているのも一般的な本格派推理小説とは大きく違うプロットで、万人受けタイプではないように思います。 |