スリープ村の殺人者 |
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作家 | ミルワード・ケネディ |
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出版日 | 2006年10月 |
平均点 | 5.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | 人並由真 | |
(2024/06/07 15:59登録) (ネタバレなし) 英国の小さな村スリープ村で、とある人物の絞殺死体が見つかる。村の周辺には大き目の川が流れており、そこへボートを使ってやってきた一人の男性がいた。彼=グラント・ニコルソンはもしかしたら殺人者ではないかという不審の目を向けられる一方で、確証のないまま土地の人々とも親しくなり、じきに空き家である「ブリッジハウス」の借主となった。所轄であるホウムワース警察のマーシュ警部は事件を追うが、やがて事態はさらなる展開を見せてゆく。 1932年の英国作品。 三冊しか翻訳のないケネディ作品の既訳分は、これで全部読んでしまった。 メタ的というか、送り手の作者の恣意的にちょっとひねった事をした他の二冊に比べて、本書はずいぶんと真っ当なカントリーもののフーダニット・パズラー。 舞台劇か映画にしたら栄えそうなタイプの雑多な登場人物が入り乱れ、少しずつ話を転がしていくあたりはクリスティーの一部の諸作を思わせるが、向こう程、話の細部にくっきり感がないのでやや退屈。夜明け近くの深夜に読んでいて、途中ではうっすら眠くなった。 ただし終盤に近い後半でいきなりイベントは起きるわ、最後には大きなトリックと意外な真犯人が用意されているわ、でいっきにハデになる。とはいえ犯人の設定が(中略)なのは、チョンボだという人もいるかも……。 (その点について、自分の感慨はグレイゾーン。) トータルとしてはまあまあ面白く、得点的に良いところだけ拾うなら、けっこう悪くなかったとは思う。 シリーズ探偵がほとんどいないらしいのが商売的にはネックなんだろうけど、ケネディはもうちょっと、何冊か発掘紹介してほしい作家ではある。 最後に、00年代に珍しいミステリをいっぱい発掘紹介してくれて大感謝! の新樹社だけど(なにせ、あの1949~51年の戦後翻訳ミステリ叢書黎明期のひとつ「ぶらっく選書」と同じ版元で、その直系じゃ)、本書は登場人物表がかなりザル(フレディ・タイナンほか、主要キャラがあと数人は絶対にほしい)。さらに解説も訳者あとがきも何もない、巻頭の遊び紙のあとに原書の発行年も記載してないというルーズな編集&仕様。 この時期になると在庫を抱えて版元も疲れてきたのだろうか……と余計なことを考えたりする。翻訳そのものは読みやすかったけど、オクスフォードを妙な誤植表記してあったのはちょっとアレ。 ミステリファンの登場人物による、名探偵談義(というか名前の羅列・P22~)は楽しかった。 |
No.2 | 6点 | mini | |
(2014/11/04 09:58登録) 先日に論創社から、ニコラス・ブレイク「死の翌朝」と、ミルワード・ケネディ「霧に包まれた骸」の2冊が同時刊行された ケネディ「霧に包まれた骸」は長編第2作目だが、実は戦前にそれも原著刊行の翌年に『新青年』に抄訳が有った、今回のはその完訳である、めでたしめでたし‥ と簡単に説明すれば良いわけじゃないのである(苦笑)、何故そんなに性急に翻訳紹介されたのかというと、『新青年』では犯人当て懸賞パズルという扱いだったらしい、道理で抄訳だった訳だ という事は原著も読者挑戦的要素が強いという事なのだろうか? さてケネディの完訳はこれまでたったの2冊、1冊は代表作「救いの死」で国書刊行会の例の全集に入っていたが、2冊目の「スリープ村の殺人者」は新樹社だったので今ではもう忘れられている感が有る、ここで掘り起こそう 私が思うにミルワード・ケネディという作家は、探偵役という存在に着目しそして懐疑の目を向けた作家だったと思う 例の森事典でも、ケネディは佳作揃いのノンシリーズ作品に比べて、盟友A・バークリーの迷探偵シェリンガムみたいなユニークな探偵役を生み出せなかったと指摘されている たしかにシリーズ探偵も2人創造しているが、両探偵役共に2作ずつしか無く、これではシリーズ探偵キャラで人気を博すのは無理な話で、結局は作家としては少々マイナーな存在で終わってしまった原因の1つだろう、ただし黄金時代の英国探偵作家クラブの重鎮の1人でもあり書評者としては名を馳せていたらしいが 尚、今回刊行された「霧に包まれた骸」は初期の数少ないシリーズ探偵ものの1作である ケネディの探偵役の存在というテーマは代表作「救いの死」で十二分に発揮されているが、本書「スリープ村」ではその辺がやや薄味でヘソ曲り作家ケネディにしてはオーソドックスな本格だと森事典も指摘されている まぁ作者比ではそうなんだろうけど、2作しか読んでない私としては「救いの死」が極端なだけで、この「スリープ村」もなかなか一筋縄ではいかない 「救いの死」では探偵が推理能力が有るのは当然として、人間性的にも優れた人物である必要性が有るのか?というテーマに挑戦していたが、「スリープ村」では、そもそも探偵役というのは物語当初から登場して探偵役としての存在感を発揮する必要性が有るのだろうか?というテーマに思える 探偵役が最初から登場はしていてしかも中盤でもちゃんと推理する場面も有るにも拘らず、終盤になって読者が初めて探偵役の存在に気付くというのはよく有る手法かも知れないが、そこに早くから目を付けたケネディのすれからしな視点は評価したい |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2014/08/22 16:02登録) (ネタバレなしです) ミルワード・ケネディが20冊近く書いたミステリーの中では1932年発表の本書はかなりストレートな謎解き作品に仕上がったとされる本格派推理小説です。少なくとも「救いの死」(1931年)よりは受け容れ易いでしょう。しかしながら考えていることを描写している場面が結構ある割には人物像が浮かび上がりにくいなどどうも文章が読みにくく、しかもアリバイ調べ中心のゆったりした展開なので退屈する読者はいるかもしれません。作品舞台(川の流れる村)の活かし方は上手だと思います。 |