時計じかけのオレンジ |
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作家 | アントニイ・バージェス |
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出版日 | 1977年06月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | 虫暮部 | |
(2024/05/31 15:14登録) この主人公には同情や共感が毛ほども抱けない。“体制の犠牲者” みたいな側面を加味しても尚、自業自得だと思う。 第3部4章、ミリセントにぶちのめされて、助けを求めた先で更に皮肉な再会があり、困惑の状況に絡め取られる。私は “そうか、こういう形で袋小路に追い詰めることこそ作者の狙いだったのか” と胸を躍らせたのだが、御都合主義的な流れで解放されてしまった。えー、そんなんでいいの? 幻の最終章の是非など些細な問題で、その前、第3部6章の生ぬるさが大問題。主人公が全身不随になって、口述筆記で書かれた回想がこの本、と言う叙述トリックなら良かったのに。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/07/19 04:53登録) (ネタバレなし) 近未来。全体主義が支配する英国。市民は法規から逸脱することのないかぎり、衣食住の心配のない生活をしていたが、そんな社会は若者たちのありあまる活力を却って刺激し、夜の街は不良少年の悪事の温床になっていた。「おれ」こと15歳の少年アレックスは、以前に非行を咎められて感化矯正指導員P・K・デルトロイドの監督下にあったが、くだんの指導員や両親の目を盗んで、同世代の3人の仲間たちと徒党を組み、傷害、強盗、レイプなどを繰り返していた。そんなアレックスは、ある日、とある金持ちの、猫好きの一人暮らしの老婆のもとに押込み強盗に入るが……。 1962年の英国作品。 耳に響きの良いタイトルは、大昔からキューブリック(クーブリック)の映画版を介して昔からなじんでいたが、これまで原作の小説も映画も縁がなかった。先日、ブックオフで文庫の旧版に出会って購入したのを機に、このたび原作を読んでみる。 映画での紹介記事などで、内容が一種の近未来SFで若者たちの超暴力を主題にしたもの、というのは以前から聞き及んでいたが、旧文庫版の巻頭に掲載された文芸評論家の解説を先に読むと、グレアム・グリーンの不良少年もののクライム・ノワール『ブライトン・ロック』との類似性のようなものにも言及してある。 キューブリックの映画がどのように潤色・演出されたかは未詳だが、なるほど、原作小説を一読するかぎり、この作品は全体主義ディストピアものの風刺SFであると同時に、近未来を舞台にした青春クライムノワールの面も相応に備えている。そういう意味では、十分に、広義のミステリの一角に在しているといえるだろう。 名訳者・乾信一郎が、原文の独特さを日本語で再現しようと練りこんだ翻訳は淀みなく、特徴的な文体で読者を軽くトリップさせながら、予想外に起伏の大きい物語を一息に読ませる。 いや、ストーリーだけ追っていっても、(ほぼ60年前の旧作ではあるが)今読んでも十分に面白い。 作者が言いたいのであろうと思えることは、自分なりに受け取ったつもりだし、あとはそれがズレているか、見落としがあるかは、また次の話だ。 ちなみに前述のように、今回は旧版のNV文庫で読んだが、一時期割愛されていた最終章を復活させた完全版が、21世紀になって翻訳刊行されていたのを読後に初めて知った。 くだんの完全版のAmazonのレビューがたまたま目に入ったが、それらを拝見するに賛否両論のようで、さもありなん。正直、旧版のラストは確かに尻切れトンボ感がなくもない。 完全版がどのようなものか、そのうちそこだけ覗いてみようかとも考える。 |