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ミステリの祭典

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すりかわった女

作家 ボアロー&ナルスジャック
出版日1978年09月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2024/11/30 10:10登録)
人物の「入れ替わり」と言えばボア&ナル、ボア&ナルと言えば「入れ替わり」、って言いたくなるくらいに、ボア&ナル十八番の「すりかわった女」。

人並さんは他のフランス作家の例を引いておられるが、ボア&ナルが「入れ替わり」サスペンスのスペシャリストであることは、きっと否定なされないだろう(苦笑)なんだけども本作はボア&ナルの後期作。というわけで「入れ替わり」の表も裏も百も承知のボア&ナルによる「入れ替わり」正面突破の作品となる。

で本作の変化球は、入れ替わる本人のキャラ設定。野心によって強引になり替わるのではない。「ぼんやり娘」と呼ばれるくらいに、主体性がなくておとなしい女性がヒロイン。たまたま事故で助かり、ボケかけていた伯父の愛娘の死を受け入れられない気持ちからか、伯父の誤解に乗じてイトコと入れ替わる。夫は伯父の遺産相続で有利な立場になることから、委細承知の上。しかし、ヒロインは入れ替わったイトコが秘密裏に結婚していたことに気づく....「二人の夫をもつ女」になってしまったヒロインの運命やいかに?

という話。本来の夫は結構頼りないし、秘密結婚の男は軽薄な色事師。だから後期ボア&ナルらしく、ヘンに喜劇的な雰囲気で話が進行していく。本人たちは大真面目なのには違いないが、客観的には喜劇みたいなもので、そういうシニカルさを楽しむ作品だと思う。

後期のボア&ナルの特徴って、本来悲劇的であるべき心理劇の枠組みの中に、「そぐわない」キャラを投入することで、悲劇を相対化してリアルでありかつアイロニカルな味わいを出す、ということなんだと思うよ。「皮肉な喜劇」が大好きな評者って少数派だと思うけどもね。

No.1 6点 人並由真
(2021/06/17 18:45登録)
(ネタバレなし)
 1975年。ペルシャ湾の小国ジブチから、大企業「ルウー航空会社」の元社長ビクトール・ルウーとその親族がパリへ向かう。だが一同を乗せたボーイング317便は、オルリー空港で着陸時に多数の死者を出す事故を起こした。ルウーは廃人同様になり、一人娘のシモーヌは死亡。しかしルウーの姪でシモーヌと姉妹同様に育ったマリレーヌ、そしてその夫フィリップは無事だった。パリに知人がいない事実に目をつけたフィリップは、妻マリレーヌに シモーヌの身代わりを演じさせ、巨万の財産をもつルウーの遺産の相続を目論む。だが死亡したシモーヌには、実は秘密に結婚していた美青年の夫ローラン・ジェルバンがいた。

 1975年のフランス作品。
 ……個人的には特に狙っている訳ではないのだが、この数カ月内に手にしたフランスミステリは『黄金の檻』『シンデレラの罠』そしてこれ、と、惨事を経てヒロインが入れ替わる(そうかもしれない?)発端で始まる作品ばっかり。
 これはもうフランスミステリの伝統芸だね。

 本作はポケミス巻末の資料によると、ボアロー&ナルスジャックコンビの、別名義作品(ルパンものなど)やジュブナイルを除いて21番目の長編(著作)のようだが、さすがもう書き慣れた巨匠たちの一作、話のまとまりやひねり具合、そして最後のオチ。すべてにソツがない。なお上のあらすじには登場しない重要人物がさらにひとりいるが、それはここでは伏せておく。

 まあ、いくら田舎住まいとはいえ、フランス周辺で数十億フランもの資産を持つ飛行機会社の社長、その令嬢がパリでまったく顔も知られていないというのはいささかリアリティを欠く気もするが、これはまあ評者も現実にそんな人種と密な付き合いがあるわけでもないし、それはそれでリアルだと言われたら、強く反論することもできない。
 その辺の摩擦感をとりあえずノーカンにすれば、良い意味で土曜ワイド劇場とかにピッタリ翻案できそうなわかりやすい、大人の黒いおとぎ話みたいなストーリーで、この作者コンビとしては十分に水準以上の一冊だろう。
 というか、もしかしたらラストの余韻は、これまで自分が読んできたこのコンビの諸作中でもかなり上位の方かも。

 一方でなんかまとまりの良すぎるところで、作品固有の個性をもうひとつ感じない部分がないでもない。その辺りはもしかすると本作の弱点かも。
 読了までの所要時間2時間、お時間のない時でも、フツーに楽しめる一冊ではある。

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