第二の顔 |
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作家 | マルセル・エイメ |
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出版日 | 1957年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/04/09 04:40登録) (ネタバレなし) 1930年代末のパリ周辺。「ぼく」こと38歳の平凡な中年で、広告仲介会社社長ラウル・セリュジュは、役所に出かけたその日、いつのまにか自分の顔が全く変わっていることに気づく。そこにあるのは、30歳前後のかなりの美青年の顔だった。不条理な現実に戸惑いながらも、とにもかくにもこれを事実だと受け入れたラウル。彼は自分の会社から何とか資産を持ち出し、表向きは海外出張を装いながら隠遁生活に入る。「ロラン・コルベール」と名乗ったラウルは、この怪事を妻ルネーの叔父で、好人物ながらいささかボケかけた老人アントナンに述懐。一方でとある考えから愛妻ルネーを、初対面の美青年ロランとして<不倫>の情交に誘うが。 1941年のフランス作品。 昭和の広義の翻訳ミステリ分野では、結構有名な不条理ファンタジーだと認識していたが、本サイトでもまだレビューがない。じゃあ、と思い、書庫で見つかったこの一冊(創元文庫の帆船マーク)を読んでみる。 そういえば、読了後に訳者あとがきを読んで改めて意識したが、この作品、乱歩の『続・幻影城』の中で<変身願望>テーマのサンプルとして取り上げられていたのであった。 主人公ラウルの唐突な変身の原因は不条理小説の常として? 最後まで読んでも不明(神のみわざらしいとか、そういう観測は作中でなされるが)。 とにもかくにも、若くてハンサムな顔、そして新たな名前という、これまでと刷新した容姿と素性を手に入れたラウルだが、だからといって行動の枠が大きく広がったりはせず、自分の奥さんを別人を装って寝とりにいくというのが、笑えるような切ないような微妙なところ。そのほか数名のヒロインたちとの関係性をふくめて、若いハンサムに変身したからって何が大きく変わるものでもない、元の位置からそう遠ざかれない、という主張も覗いてくる(まるでサム・スペードの語る、失踪したダンナのその後の逸話のようだ)。 大設定の突拍子なさの反面、その後の展開はおおむね地味で地に足がついた感じだが、それだけに随所のユーモアや人間模様のペーソス感がなかなか味わい深い。ラストの決着はちょっと引っかかるところもあるが、まあその辺は。 とりあえず、読んでおいて良かった、とは思うけど。 |