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ミステリの祭典

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信長島の惨劇

作家 田中啓文
出版日2020年12月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 パメル
(2024/09/22 19:28登録)
本能寺の変で織田信長を自害に追い込んだ明智光秀が羽柴秀吉軍に敗れた山崎合戦。その後の二週間に起きた事件の物語。
死んだはずの信長からの手紙により、秀吉、柴田勝家、高山右近、そして徳川家康が、三河湾に浮かぶ小島に呼び寄せられた。部下の帯同を禁じられ、船も返すように命じられた彼らは、待ち受けていた森蘭丸や千宗易(後の千利休)、お玉(後の細川ガラシャ)などとともに、島の館で過ごすことになる。だが、信長との面会が敵わぬうちに彼らは次々と殺されていった。今日で流行っている童歌の通りに。戦国版「そして誰もいなくなった」。
外界との往来を遮断された孤島における連続童謡殺人事件を、著名な戦国武将たちが演じるのである。しかも彼らは推理合戦を繰り広げたりもする。それも史実を踏まえて動機を語りつつである。その上で作者は島で起きた事件について、実に丁寧に一つ一つの要素を積み上げるようにして読者を裏切ってゆく。信長と光秀の関係が描かれる冒頭から、謎解きが終わり関係者のその後が語られる結末までぐいぐい読ませる。ツッコミどころは確かに多いが、エンタメ小説として十分楽しめる。

No.1 7点 メルカトル
(2021/03/15 23:19登録)
本能寺の変で織田信長が明智光秀に討たれてから十数日後。死んだはずの信長を名乗る何者かの招待により、羽柴秀吉、柴田勝家、高山右近、そして徳川家康という四人の武将は、三河湾に浮かぶ小島を訪れる。それぞれ信長の死に対して密かに負い目を感じていた四人は、謎めいた童歌に沿って、一人また一人と殺されていく―。アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』にオマージュを捧げた本格時代ミステリの傑作。
『BOOK』データベースより。

駄洒落を封印した真面目な田中。
時代ミステリは現代小説と比較して制約が厳しく、本格に寄せれば寄せるほど自らの首を絞めることになりかねません。そこを見事にクリアしてサスペンス風の本格ミステリに仕上げた手腕は褒められるべきだと思います。死んだはずの信長の命を受けて孤島に集められた秀吉、家康、勝家、右近の生き様や思考回路が手に取るように分かり、単なるオマージュに留まらない佳作となっています。

ただ、秀吉の三河弁が緊迫感を欠く事に繋がっているのはやや残念でしたが、他にも千宗易(のちの利休)や光秀の娘お玉も登場し、場を盛り上げます。そして、結果的に何故光秀が信長に謀反を起こしたのかが逆説的に説明されているところは大変面白いと思いました。残りページも僅かになって大丈夫かと思いきや終盤の畳み掛ける展開にはやられました。

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