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ミステリの祭典

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ソロモン王の洞窟
アラン・クォーターメンシリーズ/別題『ソロモン王の宝窟』

作家 H・R・ハガード
出版日1955年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 5点 クリスティ再読
(2023/02/16 11:01登録)
子供の頃ジュブナイルを読んだんだったっけな....冒険小説の定番作品で記憶がごっちゃだが、改めて大人向けでは読み直してはいない。そんなのが普通だと思う。

「宝島」に刺激を受けて書いてベストセラー、それにドイルが刺激を受けてホームズ譚を書き始め...という伝説の冒険小説。「宝島」が子供主人公のクセにしっかり対立陣営の駆け引きを描く大人向けだったのと比較すると、本作は大人三人組が主人公なのにわりと他愛がなくて、シンプルにピンチ~助かるの連続の話。それでもククアナ国での戦争話は当時のイギリス人の軍事常識が反映されていて迫力がある。ドイルの「失われた世界」後半のインディオの国の戦争話は本作の構図をしっかり借用したのだろう。

ファンタジックな味わいもあまり感じないが、グッド大佐の洒落者っぷりにユーモアがある。確かにモノクルって西洋人の彫りの深い顔だからこそ、嵌って落ちないんだよね(苦笑)

どっちかいうと評者は本作よりも「洞窟の女王」の方にロマン色を期待している。そっちも入手済み。まあ順番だからね。

No.1 8点 人並由真
(2021/03/15 19:54登録)
(ネタバレなし)
 19世紀の末。「私」こと、高名なハンターながら求道がすぎて貧乏な50代前半の英国人アラン・クォーターメンは、30代半ばの金持ちの英国貴族ヘンリー・カーティス卿から相談を受ける。それは2年前にアフリカ奥地で行方不明になったヘンリー卿の弟ジョージを捜索する旅に、同道を願うものだった。情報を交換した彼らはその奥地にダイヤの秘宝が眠る可能性まで認めた。ヘンリー卿の友人の海軍大佐ジョン・グッドを仲間に加えた一行は、現地アフリカの従者たちとともに灼熱の砂漠を、そして極寒の雪山を超えて目的地の秘境にたどり着く。だがそこで彼らを待っていたのは、未開の小国ククアナ国での戦乱であった。

 1885年の英国作品。作者ハガードの第二長編で出世作。そしてアラン・クォーターメンシリーズの第一弾。

 イギリス冒険小説を嗜むならH・R・ハガードもまずは一冊くらい読もうと思い、少し前にブックオフで出会った創元文庫版(旧ジャケットカバー)を購入(その後、蔵書の中から数十年前に買っていた、未読の同じ本が見つかった……)。
 
 昨日から読み始めて、真ん中でひと晩小休止したのち、ほぼイッキ読みしてしまった。
 解説によると本作執筆時のハガードの仮想敵は、少し前から英国の読書人の間で反響を呼んでいた『宝島』だそうで、実際に刊行後の本書は『宝島』以上の英国読書界の好評を獲得。部数もずっと多く出たそうである。
 大仰な話だが、あれよあれよとお話が転がっていく展開のスピーディさは確かに時代を超えて格別。
「スティーヴンスンなら一章費やす描写をハガードは2ページで済ませてしまう」とやはり解説にあるが、それはいささかオーバーでは? とも思うものの(クライマックスのククアナ国内戦の合戦シーンの迫力と密度感、重量感はスゴイ)、まあ言いたいことは、わからなくもない。
 
 ちなみに文明人が未開の原住民を欺いて自分たちを一種の超人(魔術師とか宇宙人とか)に見せかけるため、(中略)のタイミングを利用するという昔ながらのネタは、本作がたぶん嚆矢なのであろう。これも初めて知った(以前にどっかで見知っていて忘れてなければ)。

 ストーリーは素朴といえば素朴だが、一方で良くも悪くも社会的コンプライアンス(人種問題とか)を気にしなくてよい時代の作品らしい、今ではなかなか味わえないバーバリックな物語性に満ちている。その意味では21世紀の現在でも、いやある面では~少し頭を冷やしながら~21世紀のいまだからこそ熱狂できる、古典冒険小説だともいえる。

 しかし主人公アラン・クォーターメンが意外に高齢の設定なのは、ちょっと驚いた。フィジカルな活劇場面はヘンリー卿に、原住民の美少女とのロマンスはグッド大佐に任せ、物語の手記を綴るベテラン探検家という役割分担のなかで、それなりのキャリアがあった方がいいという判断だったのだろうが。
(ドイルはハガード信者だったらしいので、チャレンジャー教授シリーズへの影響とかも興味深い。ちなみにJ・D・カーも当然のごとく、愛読していたようである。)

 クラシック作品なのは間違いないけれど、いま読んでも十分に面白いクラシック冒険小説であった。

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