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ミステリの祭典

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盗聴
エドワード・X・ディレイニー

作家 ローレンス・サンダーズ
出版日1970年01月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 八二一
(2022/05/18 20:40登録)
全編を盗聴テープ、報告書、尋問記録、手紙などで構成してある。地の文なしの小説にしたのは、この手法で迫真力を増そうとの計算だろう。
処女作でのこんな離れ業は実に大胆。

No.1 7点 人並由真
(2021/02/27 20:02登録)
(ネタバレなし)
 1968年のニューヨーク。8月31日から翌日にかけて、「デューク」こと37歳のプロ犯罪者ジョン・アンダースンとその仲間が、73丁目にある上流階級の面々が集う高級アパートを襲った。当初のデュークは極力、流血を避けて、強盗を行うつもりだった。だが仁義を通して了解を取りにいった大手犯罪組織からの過剰な干渉もあり、事態はデュークの思惑からずれこんでいった。当局や民間探偵の盗聴、被疑者の尋問、関係者への取材などの音声や筆述の記録が事件の全貌を浮き彫りにしてゆく。

 1970年のアメリカ作品で、作者の処女長編。
 評者は大昔に購入していたNV文庫版で読了。
 あらすじの最後に記したように、小説のほぼ全編(正確には9割くらい)が、盗聴や尋問、取材などで得られた会話の音声を書き起こしたダイアローグ形式の作品。

 似たような仕様のミステリはその後の東西でいくつも出たような気もするが、当時としてはたぶんかなり新鮮なスタイルだったハズではある。
(本当に正確に、まったく前例がなかったとまでは断言できないが~手紙の交換形式なら、セイヤーズやP・マクドナルドとかあったし。)

 ただしNV文庫巻末の解説によると、本作はこのダイアローグ形式の仕様うんぬんより、前年のクライトンの話題作『アンドロメダ病原体』を想起させる、生々しいドキュメトタッチのフィクションとして反響を呼んだという主旨のことが指摘されている。評者はまだ『アンドロメダ病原体』を未読なのでなんともいえない面もあるが、まあ真っ当な観測なのであろう。
 少なくとも本作は、こういう音声記録という客観的な叙述形式ななので、当然ながら地の文には主観的な感情などは入りにくく、全体的に抑制されたドキュメント風の一冊に仕上がってはいる。

 実を言うと、金持ちが集うアパートを強襲して金品を奪おうという犯罪そのものは、地味でまあ小規模なものなのだが、とにかくその実行に至る過程を前述の会話記録形式でとにかくしつこくしつこく、そして薄皮を剥ぐようにじわじわ語ることでテンションとサスペンスを高めていく。
 このジワジワ見せる手法もまた、やはりその後に無数の類作が登場したため、21世紀のいま読むとさほど目新しさはない。それでも作者が気迫を込めた処女作ゆえに、かなりの歯ごたえがある。

 翻訳の元版であるハヤカワノヴェルズ版では、おなじみの<途中から本文に封をした返金保証仕様(こんなオモシロイ作品を途中でやめられますか?)>だったようで、当時の早川もそれだけこの作品に自信があったということになる。

 なお本作は、のちの『魔性の殺人』以下の「大罪シリーズ」の主人公(ヒーロー捜査官)となるエドワード・X・ディレイニー署長(NY警察署のトップ)のデビュー作でもある、本作の実質的な主人公はデュークなので、今回はそれなりに重要度の高いサブキャラポジションだが、のちのちの濃いキャラクター描写は早くも感じられる。
「大罪シリーズ」は、そちらから読んでも別に構わないと思うが、きちんと本作から順を追って楽しむのも、また一興ではあろう。

 本作の評点は、8点に近いこの点数ということで。

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