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ミステリの祭典

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フォン・ライアン特急
フォン・ライアン(ジョセフ・ライアン大佐)

作家 デビット・ウェストハイマー
出版日1965年01月
平均点9.00点
書評数2人

No.2 8点 tider-tiger
(2023/10/16 02:14登録)
『隊のなかでも、彼以上に空に憑かれ、地上では彼以上友だちの少ない人間はいなかった』本文より

~第二次大戦も終盤、米国空軍大佐ライアンはイタリアで撃墜されて捕虜収容施設に入れられた。そこは不潔と怠惰が満ちゝていた。収容されている米兵、英兵は野良犬の群れに等しかった。
捕虜の管理者に就任したライアン大佐は「こんな体たらくでは脱走もままならないではないか」と、こんな風に思ったのかどうかは定かではない。

1964年アメリカ。本サイトに人並さんがいらっしゃらなければ存在自体知らなかった作品でした。閉鎖環境で困難に直面、内部統制を図りつつ、機をみて脱出するという話です。すなわち前半はライアン大佐が捕虜たちを軍人へと立ち返らせる努力が描かれ、後半に入ると手に汗握る脱走劇となります。大ヒット作とのことですが、時の流れとともに埋もれてしまった感のある作品です。そんな現状が不思議なくらいの面白い作品でした。

作者は第二次大戦中に米国空軍に所属しており、イタリアで撃墜されて捕虜になった経験があるようです。ですが、あまり説明的な描写はせず、作中人物の行動を中心に捕虜の生活が描かれています。また、心理描写もあまりなくて、主人公のライアン大佐がどういう人間なのかはよくわかるのですが、なにを考えているのかはいまいちわかりません。口数少なく、妥協せず、他人と馴れ合うこともなく、規律と信念を冷徹非情に貫き通す。犯罪行為はしないけど、人殺しはする悪党パーカーといったところでしょうか。
物語の型としては『一五少年漂流記』面白い作品の一つのパターンともいえます。八方塞がりの状況下に置かれた集団の中に有能だが厳格で面白みのないリーダーがいて状況を打開していく。それがうまくはまりまくった上等なエンタメ作品であります。即物的で硬質な作品であります。

序盤はあの人物を起点にして鋼鉄の男ライアンにも緩みというか人間味が生まれるのかと想像しましたが……感情の揺れ動きが少ないライアン大佐だけに、彼が感情的になりかけた場面が非常に印象的です。いやはやそうきましたか。

ライアン大佐三十六歳とありますが、四十五歳くらいに感じてしまいます。ブライト・ノア中尉一九歳の衝撃には負けますが。

No.1 10点 人並由真
(2021/02/21 17:11登録)
(ネタバレなし)
 1943年半ば、世界大戦のさなか。36歳のアメリカ空軍大佐ジョセフ(ジョー)・ライアンは南イタリアの戦線で爆撃機に搭乗していたが、敵の砲撃を受けて敵陣内に不時着し、イタリア軍の第202捕虜収容所の一員となる。同収容所の1000人近い米英軍人の捕虜のなかで最高の階級のライアンは、そのまま自ら捕虜の代表責任者に就任。それまでのリーダー格だった英国軍人エリック・フィンチャム中佐たちの不満もよそに、捕虜たち全員に適切な軍規と規則正しい生活を指導。捕虜たちの大半から「フォン(「貴族」を表すドイツ語が転じて、頑固者、融通が効かない男)・ライアン」と呼ばれるようになる。やがて43年9月にイタリアが降伏。1000人近い捕虜たちは解放を確信するが、彼らを待っていたのは、イタリアを制圧したナチスドイツによる過酷な収容所行きの軍用列車だった。「フォン」ライアンとフィンチャムたちは、ドイツ軍管轄下の列車を乗っ取り、連合国側または中立国への脱出を図る。

 1964年のアメリカ作品。
 米空軍の軍籍を持つ作者ウェストハイマーが執筆した当時の大ベストセラー、戦争冒険エクソダス小説で、作品そのものが刊行されないうちから映画化権が20世紀フォックスに売れて、フランク・シナトラの主演(ライアン役)で映画化された。
 評者は青年時代にTV放映で同映画を観賞。めっぽう面白かったとは記憶しているが、その時点で原作は終盤の展開が大きく異なるとすでに知っており、いつか読みたいと思って映画スチールのジャケットカバー付きのポケミスを大昔から入手していた。そして実際に読むのは、くだんの映画を観てから数十年後の現在になってしまった。

 し・か・し……なにこれ! いまさら大昔に観た映画との比較なんか素直にはできないが、少なくともこの原作小説は最強・最高に面白い!!

 小説の前半は202に収容されたライアンによる同所の掌握(もちろん健常な、規律的な意味での)に費やされ、自分をふくむ読者の大半が期待する軍用列車の乗っ取りと脱出行に突入するまでにはかなりの紙幅が費やされるが、しかしこの部分がすこぶる読ませる。
 スーダラな生活を送りたい収容所の捕虜たちの大半と軋轢を重ねながらライアンが所内の改革を継続し、同時に良くも悪くもゆるかった収容所監督のイタリア軍ともわたりあう。ときにスリリングにときにユーモラスにひとつひとつの事案の推移を語りながら、一方で後半の布石となる群像劇としてライアンをはじめとする多数のキャラクターの肖像を描き出していく筆の巧妙さ。

 この前半だけでも十分に戦争シチュエーション小説として読み応えがあったが、さらにその前半を基盤にしながら、二転三転どころか九転十転くらいの大中の山場を設けて展開される本作の本領たる後半の一大脱出劇。捕虜側内部の密な連携と相応の齟齬を軸にしながら、戦時中の敵の領土内のダイアグラムを探索、操作するサスペンス、想定内のものも予期しないものもこもごも踏まえて、自由と生を求めるライアンたちの障害となる数々の要因……。そして怒濤のクロージングへと。
 はい、まちがいなく、これは大傑作。

 二十世紀に書かれた第二次大戦ものの戦争冒険小説のトップ3は
①フォン・ライアン特急
②アラスカ戦線
③女王陛下のユリシーズ号
もう、これでいいよね、と、問答無用で断言してしまおう(笑)。
(次点はヒギンズ=グレアムの『勇者たちの島』あたりか。)

 なお本作は80年代に、ライアン主役の続編が書かれているはずで、その情報を大昔にミステリマガジンの海外ニュース記事で読んだ覚えがある。なんかの弾みで、今からでも翻訳出ないかな~(かなり望み薄だとは思うが)。
 まあ戦争冒険小説版『黒衣夫人』(しばらく再読してないが)とか『ウルフ連続殺人』みたいになってる可能性もなきにしもあらずではあるけれど、それでも本当になおも健在なファン・ライアンの勇姿を今一度、この目で確かめたいぞ。

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