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ミステリの祭典

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アクティベイター

作家 冲方丁
出版日2021年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 SU
(2023/08/22 22:30登録)
冒頭、不審な機体の飛来に自衛隊機がスクランブル発信する場面では、専門用語の連続でどうなるかと思わされたが、やがてそれが中国のステル爆撃機で羽田に強行着陸、パイロットが亡命を申請するあたりから一気に乗せられていく物語は二人の視点から描かれる。
一人はその亡命機の対処役を仰せつかった警視庁警備局の鶴来誉士郎警視正、もう一人はその義理の兄で、綜合警備会社の警備員、真丈太一。一介の警備員が亡命機事件とどう関わるのか、関わりようがあるのか。程なく彼は世田谷の中国人客から呼び出しを受け、その家に向かう。そしてそこから始まる謎の刺客たちとの死闘。そこで繰り広げられる格闘劇の描写は迫力満点。
一方の鶴来警視正も現場に次々に現れる怪しいげな官僚等を相手にいかなる謀略が進行中なのか見極めていく。もちろん中国の亡命機の飛来には様々な国際謀略が絡んていて、その情報劇も素晴らしい。

No.1 6点
(2021/06/28 08:38登録)
 ある日羽田空港に突如、亡命希望の中国製最新鋭ステルス爆撃機・H-20が飛来した。各省庁に先駆けて現場の主導権を把握した警察庁警備局警視正・鶴来誉士郎は、女性パイロット・楊芋蔚(ヤンチェンウェイ)を事情聴取しようとするが、その彼に彼女は告げる。「機体には核弾頭が搭載されている」と。
 核テロなのか、あるいは中国側の宣戦布告なのか。混乱と怒号渦巻く中、護送中何者かに拉致され囚われの身となった芋蔚を助けたのは、鶴来の義兄であるアネックス綜合警備保障警備員・真丈太一だった。核起爆の鍵を握る彼女の身柄をめぐり、中国の工作員、ロシアの暗殺者、アメリカの情報将校、韓国の追跡手(チェイサー)らが暗躍する。爆発すれば人類史上最大の犠牲者が――。そしてH-20の機内に隠れ潜む、もう一人の搭乗者とは?
 未曾有の恐怖の中、東京中を奔走する鶴来と真丈。『天地明察』『マルドゥック・スクランブル』等数々のヒット作を生み出した作者が、25年の作家生活の総決算として送り出す、極上の国際テロサスペンス。
 「小説すばる」二〇一八年四月号~二〇一九年十二月号までの連載分に加筆修正を行い、二〇二一年に刊行された、著者現代初舞台のポリティカル・アクションノベル。ただし〈総決算〉の謳い文句とは異なり、「SFマガジン」並行連載の『マルドゥック・アノニマス』と比べるとかなり薄味。ダブル主人公・鶴来&真丈の活躍を軸に、過去の因縁に絡むシリーズ全体の黒幕 "ストレンジャー" の影をチラつかせる手法は過去作〈シュピーゲル〉シリーズとも共通しますが、今回は小手調べといったところ。最初からシリーズ化前提の一作です。
 生物たる人間の特性から戦闘や交渉(ディベート)の本質を見抜き、相手側の虚を突き混乱させ主導権を握る手法は興味深く好ましいのですが、問題なのは主人公側(特に真丈)が強すぎること。〈オクトパス〉の暗号名通り格闘相手にからみついては引き倒し、各種関節を挫いて無力化するスタイルで最初から最後まで無傷。場面転換の割に印象がフラットなのはこの為で、毎回ルーチンワークを熟してる感じ。もう少し読者をハラハラさせるような展開にならんかったのかと。
 敵キャラも色々工夫して立てようとはしているのですが、前記の様に尽くアッサリ倒されるのでほぼ成功していません。結構健闘したのは螳螂拳の人かな。次作からはセミレギュラーとして登場しそうですけれど。
 逆に一番トチ狂ってるのは味方側の某人物。ラバーマスクに黒のスエットスーツで全身を覆い、返しのついた棒手裏剣(刺さると激痛のあまり痙攣し筋肉が硬直するため、抜くにはペンチとメスが必要)を容赦無く投げまくるというイカレキャラで、これには真丈もドン引き。その酷さは〈狂犬(ラビッド)〉の通り名からも窺い知れます。最強格がほぼコッチサイドに集中してるのもバランス悪いですね。
 という訳でスケールの割にはマルドゥックシリーズの様に入れ込めず、採点は6.5点。大冊の割には顔見世興行的な作品で中国やロシア等の扱いは軽く、それよりも国内各省庁同士の暗闘やスケープゴートの押し付け合い、謀略の目的などの腹芸や探り合いメイン。こちらの方はなかなかに扱いが難しく、知力担当の主人公・鶴来の魅力も十分描き切れていません。悪いシリーズではないけれど、最終判断は完結を待ってという所でしょうか。

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