犯人に告ぐ3 紅の影 巻島史彦 |
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作家 | 雫井脩介 |
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出版日 | 2019年08月 |
平均点 | 7.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | パメル | |
(2024/08/24 19:32登録) 少々ネタバレあります。 前作で、神奈川県警特別捜査官の巻島史彦の率いるチームが、誘拐事件の実行犯である砂山兄弟を捕まえた。しかし兄弟を操っていた「リップマン」と呼ばれる男は逃していた。神奈川県警本部長の曾根要介からネットテレビを利用した捜査を命じられた巻島は、番組に出演する。ネットテレビには、「リップマン」専用のアバターが用意されている。そのアバターを通じて、巻島は「リップマン」と対峙するのだった。 本書はそれと同時に、「リップマン」こと淡野悟志の物語が進行していく。旧知の女のもとに転がり込み、縁あって弟分を得た淡野は思い悩んだ挙句、詐欺師稼業から足を洗うことを決意する。ボスの「ワイズマン」にそう告げるのだが、最後のシノギの話を持ち掛けられる。それはネットテレビに出演する巻島まで利用した、警察組織を相手に仕掛ける驚くべき計画だった。 作者は前作の砂山兄弟と同じく、淡野の人生や心情を詳細に描き出している。だからこそ巻島と淡野の対決が、盛り上がるのである。さらに淡野側のストーリーにより、「ワイズマン」の正体や、犯罪計画の内容が早い段階で明かされる。警察に内通者がいることも。しかし、それが分かっても物語の興趣は損なわれない。むしろサスペンス度が増している。 しかも淡野の最後の大仕事が凄い。よくある恐喝なのだが、脅す相手が意外過ぎるのである。一連の事件の着地点など予測不可能。また、ダメ刑事だが妙にツキのある小川など脇役陣の扱いも巧みである。 「犯人に告ぐ2」で残した謎は回収したが、本作で出現した疑惑を残したまま終わっている。「犯人に告ぐ4」が今から待ち遠しい。 |
No.1 | 8点 | E-BANKER | |
(2021/02/17 20:34登録) 前作「犯人に告ぐ2~闇の蜃気楼」読了の興奮も冷めやらぬなか、続編となる本作。(要は前作の粗筋を忘れぬうちに・・・ということだけなんだが) 巻島の手を逃れた『リップマン』こと淡島と巻島の勝敗の行方、ついに決着か?! 2019年の発表。 ~依然として行方の分からない「大日本誘拐団」の主犯格『リップマン』こと淡野。神奈川県警特別捜査官の巻島史彦はネットテレビの特別番組に出演し、『リップマン』に向けて番組上での対話を呼びかける。だが、その背後で驚愕の取引が行われようとしていた! 天才詐欺師が仕掛けた大胆にして周到な犯罪計画。捜査本部内の不協和音と内通者の存在。警察の威信と刑事の本分を天秤にかけ、巻島が最後に下した決断とは?~ これは、雫井史上最高傑作に間違いない!(全作読んでいるわけではないので、あくまで読了したうちだが) 作者の持てる技量をすべて注ぎ込んだかのように、あらゆるファクターが詰まった作品となった。 小説としての骨格は、やはり「警察小説」ということだろうか。 巻島という特異なキャラクターを主役には据えているが、彼を取り巻く上司、同僚、部下、そして県警という巨大組織が、『リップマン』というひとりの敵役を相手に、ダイナミックに動き、考える様子が克明に描かれる。 『リップマン』というひとりの敵というのは、正確ではない。今回は、前作ではヴェールに包まれていた金主-『ワイズマン』の存在も明かされる。そして、何と県警内の内通者『ポリスマン』までも・・・ ひとりひとりの登場人物のキャラ立ちも半端なく効いている。 事件の舞台は、第一作でも使われたメディアを使った“劇場型”公開捜査へ。そして、これまた斬新なことに、ネット配信を使って、巻島VS『リップマン』(のアバター)が対決なんていう趣向まで用意されている。ふたりの化かし合い、ちょっとした違和感も逃さない頭脳戦の行方は! そして、終章。うん!? これは・・・続編ありってことか? 『ポリスマン』も『ワイズマン』もねぇ○○○○だし・・・ これは楽しみになった。久しぶりに時間も忘れて読書に没頭してしまった。それほどの出来栄え。(ちょっと褒めすぎかな?) これだけの大容量を一気呵成に読ませるんだから高評価は当然 (組織の論理って、どこの世界でも厄介だよね・・・。それを逆手に取る巻島はさすがだ) |