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ミステリの祭典

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失踪者

作家 下村敦史
出版日2016年09月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 斎藤警部
(2024/09/25 22:12登録)
“――俺は気づいたぞ、樋口。”

三つの時系列カットバックで読ませる、雪の山岳サスペンス。 主人公と、失踪(?)した相棒に、脇を固める二人もみな山男。
南米の高山シウラ・グランデのクレヴァスにて発見された、ホラーもしくはSFチックな不可能事象。 こいつが意外と.. 速やかに謎は払拭された! と思ったら、間髪を置かずに沸き上がる、頭がねじ切れそうな程の不可解興味(相棒は、いったい何故..)。 そして染み拡がる故殺の疑惑。 そこからしばらくは 。。。美しい友情や別れ、仕事や恋愛に励んだり、何気に謎追いのシークエンスやらあって、、不意を突いてもう一度、今度はなかなか解けない強烈な不可能興味、覆い被さるように絡みついて同行する新たな不可解興味。 年下のヒーローにヴィラン。 ヴィランが目の前で発した、だが聞こえなかった言葉の謎。 山のビデオ映像に潜んでいた違和感とは何だ!? 逆デジャ・ヴュとは?!

さあ、あの出遭いのシーン、ミステリフレンドリーにして泣けるあのシーン、最高マジ最高。 そして、閃光が刺しに来る、あの再会のシーン、やばかった。 最後もう一つの、”最大の” 再会シーン。 これがあなた、もう言葉にならんのですよ。

ある疑惑については、読者目線の疑惑を上手に二段底の浅い方に誘っていましたね。 見事です。 さてあまり注目されない様ですが、実は、前述の ‘最初の不可能事象’ 発見の少し前に発見されたノーマル事象(若い女性の屍体発見)が、初期段階での有効な(ミスディレクションとまで言えない?)読者の目線を核心からちょっとだけ逸らさせる、淡くも大事な効果を担っていたのではないかと思うのです。

ある人物の本当の人間性が明かされる、一つのクライマックス部分、そのために必要な解決用のピースを嵌めるのに少しばかり隙間が出来ちゃって、結果的に無理矢理ガタンと整えた感はある。そこはミステリとして少なからず減点対象だが、物語としてはただひたすらに熱く、ダメージは最小に抑えられたろう。 やや安易な常套手段に見えなくもない「◯◯の◯」設定だって許せてしまうよ。

終わってみれば、少しネタバレっぽい言い方になるが、主人公も気づかないままに、美しき友情の三角関係が構築されていたという事か(四角とは言うまい)。
心底泣かせる心理的物理トリック(大阪圭吉の某短篇をぼんやり思い出す)は、結局物語の端緒と終結を結び付ける虹だったわけだ。。。。

作者は登山経験無しのまま、徹底的文献調査等だけでここまでリアリティ溢れる山岳ミステリをものにしたそうです。 山に限らず、自分の明るくない分野を徹底的に勉強(リスキリング)して自らのミステリに組み込むのが好き/得意な人の様ですね。

No.1 7点 蟷螂の斧
(2020/08/27 19:03登録)
あらすじ~『2016年、ペルーはブランカ山群。山岳カメラマンの真山は単身シウラ・グランデ峰を登っていた。10年前、クレバスに置き去りにしてしまった親友・樋口を迎えにきたのだ。クレバスの底に降り立ち、樋口を見つけ出した真山だったが、遺体の顔を覆う氷雪を落として驚愕する。樋口の顔は明らかに10年前より老いていたのだ。』~

「生還者」に続く山岳ミステリーです。本作はカットバック方式が採用されていますが、成功したとは言い難いです。理由は、同じ登場人物による同じような山岳場面が多いため、各年代の区別が曖昧となってしまい頭に入ってこないということです(苦笑)。ミステリーとして、また感動ドラマとしては成功していると思います。8点献上してもいいくらいですが、前記の点がマイナスポイントと言わざるを得ないですね。トリックはよくあるものですが、数少ない山岳ミステリーでの使用だったので、かなり新鮮に感じることが出来ました。

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