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ミステリの祭典

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闇に蠢く

作家 江戸川乱歩
出版日1948年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2020/06/10 13:07登録)
どうも今の人らは、本作とか「盲獣」とか読まずに済ます人も多いみたいだ。評者が初講評なのは、そのせいかもね。ま、分からなくもないんだけど、ここらを読まずに、「乱歩とは」とか語るのはおこがましい、と思うんだが...本作とか「盲獣」とかに口を噤んで乱歩を語る人を信用しちゃ、いけないよ。
本作は、乱歩の最初の連載小説というか長編小説になる。なので作家論としての重要性は極めて高い作品になるんだが....明智もでなけりゃ、話も大したことはなくてシチュエーションだけがある作品、と言っていい。乱歩ってプロットの作家じゃないからね。例によって本作は連載を投げだして、全集に入れるときに結末を書き足して....で乱歩本人は韜晦がキツイから「恥ずかしい」のなんの並べているわけでね。

素人画家の野崎三郎はモデル兼愛人のお蝶と信濃のS温泉に夜逃げすることにした。三郎はS温泉の「籾山ホテル」に猟奇の血を騒がせる気配を感じていたのだった。でっぷりと太った主人は、温泉客に自らトルコ風という触れ込みのマッサージを買って出る奇妙な習慣があった。子守歌を歌う奇怪な女の影、お蝶と因縁があるらしい男の到着...その男に怯えるお蝶は、果たして底なし沼に落ちたのか、失踪を遂げる。お蝶の幻影に囚われた三郎は、ホテルの主人が隠す重大な犯罪を、地の底の牢獄で知ることになるのだが、三郎自身もその罪に耽溺するように成り果てる....

と婉曲に書くと、こういう話。いや実に前半、抑えた雰囲気描写がなかなかイイ作品なんだよ。で、後半の凄惨な地獄絵図と、木乃伊取りが木乃伊になる結末まで、一気に読ませる力はあるから、決して退屈な作品じゃないことは、評者が保証しよう(苦笑)。
え、何があるのかって? うん、言わぬが花、ということにしておこうか。エログロの帝王乱歩の「猟奇」の極点の一つになる作品である。

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