home

ミステリの祭典

login
ウェルズSF傑作集1 タイム・マシン
創元SF文庫/別題『ウェルズSF傑作集1』

作家 ハーバート・ジョージ・ウェルズ
出版日1965年11月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2020/05/18 23:31登録)
昔「タイムマシン」を読むのに買って、前半の短編は読んでなかった...まあそんなこともあるさ。
ウェルズってあまりちゃんと読んでなかった(あと読んだのは定番「宇宙戦争」)けど、ドイルに通じるストーリーテリングのうまさがあって、SFというよりも大衆小説のよさみたいなものを感じる。前半の短編がなかなか楽しめるものが多くていいな。
「塀についてドア」はありがちな「選択」の話なんだけど、最初に入ったときに幸福感が印象的。センチメンタルと言うなかれ。
「水晶の卵」は、骨格そのままでガジェットを置き換えたらラヴクラフトになると思うんだ...異世界(設定上は火星)をのぞき込む奇妙な水晶の卵の話。話よりも水晶の中に展開される異世界描写がすべて。短編中のベスト。「宇宙戦争」の予告編だそうだ。
で問題は「タイムマシン」。そうしてみると、この作品がイギリスの階級社会を批判する社会批評をSFのかたちで展開した..というのは言うまでもないことなんだけど、今読むとそれよりも、暗澹とした末世感みたいなものに強く打たれる。実際、世紀末のイギリスは「世界の工場」として空前の繁栄を遂げていたのだが、逆に労働者の教育や健康管理、環境に対する負荷などの対策は本当になおざりで、ボーア戦争でも兵員の供給に困って惨敗するなど、「進歩がホントに進歩なのか?」という懐疑が始まった時期でもあるわけだ。進化論の「進化の夢」も悲観的状況だとあっさり逆転して、Devoじゃないが「人類の退歩」はタイムリーなネタでもあった。加えて「宇宙の熱的死」など世界の有限性についての暗い思索が、この作品に強く反映している。モロンとモーロックの時代も頽廃の極みだが、その後の赤色巨星となった太陽の時代の終末感がなかなかキツいものがある。たぶん「暗黒神話」のラストシーンも「タイムマシン」からイメージを借りているんだろうね...

(SF史家の永瀬唯氏の「十九世紀熱力学的宇宙論の運命」によると、「タイムマシン」の最終局面での太陽は、赤色巨星ではなくて、燃料不足で燃え尽き寸前の太陽と、惑星の公転スピードが落ちて太陽に向かって落下するために、地球が太陽に近づいている...というのがウェルズの科学的な想定のようだ。「一度だけぱっと輝いた」というのは、水星とか太陽に落ち込んだのかもね)

No.1 7点 斎藤警部
(2020/05/05 19:15登録)
塀についたドア
美しく愉しそうな楽園の描写が沁みる。寓話的側面は微妙。

奇跡を起こせる男
ドラえもんみたいな無際限お気楽ドタバタ。 オチに至るまで、何もかもドラえもん。 悪くない。

ダイヤモンド製造者
擬随想のようなショートショート。 時代の空気が魅力。

イーピヨルニスの島
寓話風哀しき冒険譚。頗る短い話だが、独特の気が遠くなるよな遠大感がある。

水晶の卵
小宇宙の話と思いきや。。小市民的仄暗さの中に沈んだ宇宙のファンタジーは奇妙に壮大。

タイムマシン
センスオヴワンダーと、勇敢な智恵の中篇。 魁偉なる一品。 何故本作が古くならないのか、小説家でなくとも、考察を巡らしてみる価値が充分にあり。

全体の半分を占める表題作への評価に引っ張られ、この点数。

2レコード表示中です 書評