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ミステリの祭典

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少し変わった子あります

作家 森博嗣
出版日2006年08月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2023/02/16 00:32登録)
何とも不思議な小説である。
毎回行くたびに場所が変わる店名のない料亭。そこは女将だけが応対し、1人が切り盛りしているように思える。
そしてそこで毎回異なる女性と主人公が食事をする。たったこれだけのシチュエーションの話が繰り返される。
水戸黄門の方がもっとヴァリエーションあると思ってしまうほど毎回同じ展開なのだ。

しかしこれがなぜか面白い。
そして読んでいる私もこんな料亭があれば行ってみたいと思わされるのである。

そんな料亭での一番のご馳走であり、読みどころであるのは小山が毎回一緒に食事をする女性たちなのだ。
それは大学生のような普段着の女性だったり、眼鏡をかけた知的な若い女性だったり、30を越えた女性だったり、地味な女性だったり、異国風の女性だったりと様々だ。そしてその誰もが接客を仕事にしているような女性ではないように見えるのが共通している。
最初のうち、小山は現れる女性たちの食事をする美しい所作に見とれてしまう。いやそれもまたご馳走の一部として味わうのだ。

ただそこにいるだけ。ただ一緒に食事をしているだけ。ただ一緒に月を見つめるだけ。しかし相手が洗練され、無駄がなく優雅であるならばもうそれだけで胸がいっぱいになり、心は、魂は充足されるのである。
私は思わずため息が出た。なんて素晴らしいのかと。
この究極なまでに研ぎ澄まされた無駄を一切排除した能弁な沈黙と空間の濃密性に羨ましさを感じられずにはいられなかった。

本書は森氏の思弁小説だろう。
小山と磯部と云う2人の大学の教官の口を通じてその時々の考えが述べられる。そしてその考えに呼応するように女将の店で女性に遭い、2人で過ごした時間や聞いた話を思い出し、思索に耽るのだ。
時にはあまりに色んな話を聞き過ぎてあれは幻だったのかと思ったりもする。多すぎる話は逆に印象に残らないということだろう。

この小説のシチュエーションが実に面白かったのはまさに私の趣向にマッチしていたからだ。様々な女性の様々な性格、様々な生き様や様々な事情。それらを共有する時間のなんと愉しいことか。そして時に心揺さぶられることのなんと愉しいことか。

女性と食事をすることの愉しさと怖さを知らされる小説だ。
できれば怖さは知らぬままにいたい。そう、夢は夢のままが一番いい。ただ私が感じている孤独は小山のそれと同種であると自覚しているだけに多分私もいつか消えてしまうかもしれない。

ま、それもまた一興か。

No.1 4点 メルカトル
(2020/04/16 22:46登録)
失踪した後輩が通っていたお店は、毎回訪れるたびに場所がかわり、違った女性が相伴してくれる、いっぷう変わったレストラン。都会の片隅で心地よい孤独に浸りながら、そこで出会った“少し変わった子”に私は惹かれていくのだが…。人気ミステリィ作家・森博嗣がおくる甘美な幻想。著者の新境地をひらいた一冊。
『BOOK』データベースより。

理系の作家が非ミステリを書くとこうなってしまうという典型的な悪い例。無論、理系が文学に向いていないという訳ではありません。しかし、森博嗣の場合は、以前読んだ『喜嶋先生の静かな世界』同様に、どうも情緒に欠けるし、文章に面白味がないので、自身の狙いが上手く表現出来ていない気がします。
Amazonでは相変わらず氏の作品の評価は高いのですが、納得いきませんね。みなさん、本当に面白がっているんでしょうか。

毎回場所を変えて、もてなされる二人だけの晩餐。食事の相手は毎回変わり、十代から三十代の女性で、彼女たちは自身についての何かしらを「私」に語ってくれる。ただそれだけ。中には心の中心に暖かい燈が灯ったような微かな感覚を覚えるような不思議な境地へ誘ってくれるシーンもありますが、それは一瞬だけで長くは続きません。同じ小説を京極夏彦が書いたら、少なくとも三倍程度は面白くなったと思います。

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