スペイドという男(グーテンベルク21) コンチネンタル・オプ、サム・スペード |
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作家 | ダシール・ハメット |
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出版日 | 2015年03月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2020/05/11 20:34登録) 評者電子書籍デビュー(苦笑)。本当はシムノンの「港の酒場で」でしようか?と思ったのだが、本を拾っちゃって流れてた。まあコロナでブックハントもままならぬから、電子書籍も、いいじゃないか。 でこのグーテンベルク21の「スペイドという男」は、創元稲葉ハメットで同題の本があるけど、まったく別編集。しかも文庫・単行本未収録とかあって、おいしい! 「クッフィニャル島の夜襲」 ハメットの短編代表作視されることも多い作品なんだけど、その昔ポケミスの「名探偵登場③」に収録されて、あと嶋中文庫の「赤い収穫」に収録されて...と名作なのに、日の当たらない扱いを受けていた不遇な作品で有名。今年になって「短編ミステリの二百年」に晴れて収録。田中西二郎訳なので、中央公論社の「世界推理名作全集」(1960)での訳のようだ。結婚式の祝い品警備に、サンフランシスコの沖合に浮かぶ金持ち御用達のクッフィニャル島を訪れたオプは、その夜組織的な大強盗事件に巻き込まれる...本土への橋は破壊され、船も逃走用以外は艫綱を解かれて、島は封鎖状態。そこを二挺の機関銃で武装した強盗団が島全体を制圧し、ありったけの動産をかっさらおうという寸法。島は市街戦の様相を呈し、この軍事作戦級の一大強盗事件に、オプはどう反撃するか? ね、これだけ大規模な強盗も珍しい。しかもオプは強盗団の意外な正体を暴きだし、ハードボイルドらしい非情な結末もあり。 「つるつるの指」 文庫未収録。別冊宝石に載ったもののようだ。偽造指紋の話でリアルだが間が抜けてる。 「誰でも彼でも」 文庫未収録。これも別冊宝石。アパートでの強盗事件で、犯人の消失の不可能興味がある。結構仕掛けたトリック。 「暗闇の黒帽子」 「チューリップ」に収録あり。EQMM日本版に載ったもの。捜査よりも犯人との地下室での対決が主眼。 「フェアウェルの殺人」 創元稲葉ハメットに収録。稲葉由紀訳なので、同じ訳。 「スペイドという男」 創元稲葉ハメットに収録。これは田中西二郎訳だから、やはり中央公論社の全集の訳。 まあ「クッフィニャル島の夜襲」お目当てが当然で、期待に背かない出来。他もオプの通常営業ながら、らしさは出ていて結構粒より。 PCで読むよりも、スマホで読む方が読みやすかった...なんかそんな印象。 |
No.1 | 6点 | 弾十六 | |
(2020/04/08 04:39登録) 日本オリジナル短篇集(2008)。オプもの5篇、スペードもの1篇を収録。電子本で読了。 クリスティ再読さまに教えてもらうまで気づかなかったのですが、いままで雑誌掲載のみで単行本未収録だった作品K11、K33、現在絶版中の単行本にしか収録されていないK40の貴重な3作が収められていて、とても良い企画。(ただし単行本タイトルが他社の文庫本とかぶってるのは紛らわしくてよろしくないが…) グーテンベルク21さんには今後もこーゆー素晴らしい企画を期待しています。 以下は初出順に並べ直し。カッコ付き数字はこの本の収録順。初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。{ }内は各篇の元雑誌等(と思われるもの)を前述の短篇リストに基づき記載。 --- ⑵ Slippery Fingers (初出The Black Mask 1923-10-15, Peter Collinson名義)「つるつるの指」小山内 徹 訳 {別冊宝石93号1959-11} K11 #2: 評価5点 Black Maskの同じ号に「黒づくめの女」K12 #3(創元『フェアウェルの殺人 ハメット短篇全集1』収録)が掲載されてて、名義はハメット。つまり「Dashiell Hammett」のブラック・マスク初登場。コリンスン名義は本作が最後(コリン星に帰ったのだろう)。目次上はK12が同号中2番目、K11が11番目の掲載作品(全部で14作掲載)。なのでK番号のナンバリングを逆にしたいところ。FMIのデータには同号にハメットの手紙(letter)掲載、となってて気になる(他の数号にもハメット(letter)が載っているようだ)。 普通の探偵小説。話としてはあまり面白くない。新訳で読むと印象はちがうかも。これ、実際に使えるネタなのか? 「うちのピカ一のディック・フォーレイ」や「ボッブ・ティール」などのレギュラーキャラ初登場作品なのだが活躍せず。 p757 百ドル札♠️米国消費者物価指数基準1923/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して100ドルは16万円。当時のFederal Reserve Note(1914-1928)はBenjamin Franklinの肖像、Gold Certificate(1922-1927)はThomas H. Bentonの肖像。サイズはいずれも189x79mm。 (2020-4-8記載) --- ⑷ The Black Hat That Wasn’t There (初出The Black Mask 1923-11-1 as “It”)「暗闇の黒帽子」井上 一夫 訳 {EQMM日本語版1960-7} K14 #4: 評価6点 『チューリップ』で書評済みだが、改めて読むとキビキビした話の流れが良い。場面場面がいちいちリアル。 一人称は「私」だが、セリフの中では「あたし」(コロンボ風の)。井上先生の翻訳は好き。ところどころ、小鷹訳よりスムーズに感じた。流石です。 p105/246 先月の二十七日月曜日 p110 五セントのチップ(a jit)◆タクシーの運転手に。 p116 三二口径コルト自動拳銃(.32 Colt revolver)◆古い翻訳者はリボリバーを「自動拳銃」と訳してたのか?井上先生でさえも! p121 黒い自動拳銃(a black automatic pistol)◆こちらは正しい。 p122 必要だと思うとき以外には、拳銃は持って歩かないことにしていた◆オプの考え方。 (2022-2-11追記) --- ⑶ Mike, Alec or Rufus (初出The Black Mask 1925-1)「誰でも彼でも」砧 一郎 訳 {別冊宝石73号1958-1} K33 #15: 評価6点 ユーモラスな感じの話。テキストはダネイ版The Creeping Siamese収録(1950)によるもの。オリジナル・テキストにちょっと手を加えており、登場人物の名前もJacob CoplinからFrank Toplinに変えられている。(元の名前はユダヤ人を連想させすぎるのか?) 詳細はDon HerronのWebページHammett: “Mike or Alec or Rufus”参照。 銃は「回転胴式のピストル(リボルバー)」または「自動式(オートマティック)… 三八口径の」が登場。一般人にはリボルバーもオートマチックも区別がつかない、ということでしょうね… p1063 色は白いほうですか、黒いほうですか?(Light or dark?)♣️髪の色は明るい?暗い?だと思う。 p1123 広告の文句じゃないけど、この鼻がおぼえてます(My nose would know, as the ads say)♣️探してみたけど、このフレーズを使った広告は見つからなかった。気になる… p1134 電話の交換台と受付けと、両方いっしょにやってる♣️マンションの交換手は受付を兼ねているのが普通なのだろう。 p1181 ニッケル玉でカケを(matching nickels)♣️メキシコでの遊び方がWebにあった。matching nickels - volado (we choose either "aguila" or "sol", each side of a coin in Mexico) やってたのはフィリピン人なのでこれなのかも。 (2020-4-19記載) --- ⑴ The Gutting of Couffignal (初出The Black Mask 1925-12)「クッフィニャル島の夜襲」田中 西二郎 訳 {『血の収穫/ビロードの爪』中央公論社1969} K40 #20: 評価7点 一人称の弱点は、探偵が手がかりに気づいていても、そこを書いちゃうとネタバレになっちゃうところだが、ハメットはうまく処理していると思う。作品内容は非常に楽しめるし、ユーモアとペーソスもある。『マルタの鷹』序文でハメットが後悔している本作の結末の「失敗」---- 私も何かコレジャナイ感があった。 p3/246 コンティネンタル探偵局がとりあつかわない離婚関係の仕事(divorce work, which the Continental Detective Agency doesn’t handle)♠️ピンカートン社がそうだった。1900年ごろの広告でNo Divorce Case Undertakenと真っ先に大きな文字で宣言しているのがあった。 p6『海の殿様』(The Lord of the Sea)♠️Hogarthが登場する、というからMatthew Phipps Shiel(1865-1947)著、1901年出版の小説だろう。「デュマの荒々しいロマンス、ヴェルヌの想像力溢れる予言、そしてポオの悪夢の如き冷酷さの混淆」という宣伝文句のようだ。気になるねえ。ハメットはプリンス・ザレスキーを読んだことあるのかな? p8 小銃のなかでは一番重いやつ(the heaviest of the rifle)♠️ここは「ライフル」のほうがわかりやすいかな? p9 ごく小さい火器の一斉射撃の音(a volley of small-arms shots)♠️small-armsはピストルやライフルなどの総称。「小火器」が定訳。ここでは「重い」ライフルの音と対比して「軽い」銃の音という趣旨だろう。 p13 四角のオートマティック・ピストル(square automatic pistol) p52 浅黒い顔に(dark face) (2022-2-11記載) --- ⑸ The Farewell Murder (Black Mask 1930-2)「フェアウェルの殺人」稲葉 由紀 訳 {別冊宝石123号1963-10} K59 #35 創元文庫で読むつもり。 --- ⑹「スペイドという男」田中 西二郎 訳 {『血の収穫/ビロードの爪』中央公論社1969} K66 創元文庫か講談社文庫『死刑は一回でたくさん』で読むつもり。 |