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ミステリの祭典

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青の時代

作家 三島由紀夫
出版日1953年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2020/03/20 10:54登録)
「青」四連発の予定です。2発目は三島由紀夫なんだけど、まあ広義の犯罪小説、ということでいいのかなあ。終戦直後に東大生高利貸として名を馳せた山崎晃嗣をモデルにした小説。もちろん当サイト的には、高木彬光「白昼の死角」の導入部のモデル。主人公に「事件なき名探偵」といった分析的なキャラの雰囲気があるのが、三島らしさ。妙な意地とダンディズムが、いい。

敗戦によって戦前の価値観が崩壊する中で、「末は博士か大臣か」な東大の学生が、高利貸なんて低俗な商売を始めて...と世の中を慨嘆させた挑発的な部分を、今読むならまず頭に入れておかないとね。三島の狙いは、この主人公の川崎誠を「現代の英雄」として描くことなのだ。こういう挑発もだし、その事業のイカサマさ卑俗さに至るまで、すべて一挙に「現代の英雄」性として高めなければいけない...この使命を三島はアタマでは分かっているんだけども、どうも筆が進まなくて中途半端に終わってしまった。なので失敗作の部類である。そりゃ宣伝だけで資金を集めて食いつぶすだけの、蛸配当同然のイカサマな事業が続くわけがない。形式的な「物価統制法」で追い詰められて自殺する、というのが実際の「光クラブ」の末路なんだけど、そこまで小説は書けなくて、何か中絶したような終わり方である。
三島自身が山崎を大学時代に個人的に知っていたらしい。けどどうも、人間的にソリが合わずに好かなかったような雰囲気が、この小説から大いに立ち上る。いや三島が観念的に共感する部分も多々あるんだよ。それでもこの「英雄」がどうにもこうにも気に入らなかったんだろうね。なので三島自身の人間的な嫌悪感で作品が失敗するという、はなはだ「三島らしくもない」面が逆に面白い。

人生は、これをわれわれが劇的に見ようと欲するとき、まず却ってわれわれに劇を演ずることを強いる。そこでますますわれわれは人生を劇と見ることが困難になる。なぜなら演ずることなしに一つの劇を生きることは不可能であり、それが可能であるかのような幻想を、われわれは人生と呼んでいるからだ。

まあ、言いたいことは、わかる。けどね、これは三島の弁解だ。どうも弁解がましくなったことが、作品としてはダメでも、韜晦を通じて平岡公威の素顔が珍しく透けて見えるようで、面白いと思わないかい?

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