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ミステリの祭典

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世界樹の棺

作家 筒城灯士郎
出版日2019年11月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 糸色女少
(2024/01/23 21:13登録)
美しい国にある王城でメイドとして仕える少女・恋塚愛埋が、突然交流が途絶えた古代人形たちが暮らす世界樹へ、ハカセとともに調査に赴く。そこで棺を洋館へと運び込む少女たちと出会い、密室殺人に巻き込まれる。
図書館に置かれた文献から明らかにされた古代人形の特性が、密室殺人に解決の糸口を与える。一方で、恋塚が王城のお姫様と連れ立って世界樹へと入り込み、帝国から侵略を迫られている国王の危機を防ごうとするエピソードが展開。少しずれた時間に起こった二つの出来事が重なった時、ハカセと恋塚が暮らす世界に何が起こっているかが見えてくる。筒井康隆を唸らせた才能が繰り出すSFミステリ。

No.1 7点 人並由真
(2020/02/18 03:58登録)
(ネタバレなし)
 美しく平和な小国「石国」。その小さな王宮のなかでただ二人のメイドのうちの一方として働くのは、十代半ばの少女、恋塚愛埋(こいづかあいまい)。だが石国は、強大な国家「帝国」から共栄の美名のもとに不平等な条約を押しつけられ、亡国の危機にあった。そんな折、愛埋はわずかな人数で小国にある不思議な空間「世界樹の樹木」の調査に向かう。そこは古代文明の町並みが残り、人間と変わらぬ「古代人形」が住むという世界であった。やがて愛埋は、そこで人間とも古代人形とも判然としない6人の美少女に対面。さらに不可解な殺人? 事件にまで遭遇する。愛埋は眼前の事件の現場が密室状況だと認めるが……。

 2019年のミステリ界を騒がせた(?)三大異世界パズラーの最後のひとつ(他はすでにレビューを書いた『異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件』と『不死人(アンデッド)の検屍人ロザリア・バーネットの検屍録 骸骨城連続殺人事件』の二編)。
 三作ともそれぞれに読み応えがあって面白かったが、物語の最後に明かされる世界観のスケールの大きさではこれが一番だろう。「世界の姿が反転する」の謳い文句は伊達ではない。

 とはいえ奇抜な大技・奇想というよりは、正統的なある種の文芸、文明観を丁寧に再構築して新規の工夫のもとに巧妙に見せたという感じ。
 謎解きミステリのロジックも密に練り込まれているし(ほんのわずかだけツッコミ所もあるが)、しかもそのミステリ部分が整然とした上で、そこからビジョンがさらに外側に広がっていく。
 中盤の「え?」という叙述の真意もあえて直接は説明されないが、最後まで読んで世界観の真相を語られたときに腑に落ちる。
(それにしてもあの一行は、連城三紀彦の某作品を思い出した~こう書いてもネタバレにはなってないハズ。)

 なお終盤の一大ギミックの登場(というか判明)はやや唐突感はあったが、その時点ではすでにおおむねミステリとしての叙述は完了。すでに別のジャンルに向かいながらの筋立てなので、その意味で、文句の類は生じない。

「圧倒的スケールで放つファンタジー×SF×ミステリー巨編」というもうひとつのキャッチフレーズにもウソは無かった。
 あえて不満を言えば登場人物がみんな記号っぽいことだが、これはそういうものを書き込む要のない作品だとも思うので、実のところは文句にも当たらないだろう。
 優秀作、でいいと思うよ。

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