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ミステリの祭典

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ミステリと東京
川本三郎

作家 評論・エッセイ
出版日2007年10月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 SU
(2023/11/23 21:32登録)
もともとミステリは、主として殺人事件などを扱う特質から多くの場合、警察や私立探偵の存在と犯罪が発生しやすい地域が前提となる。フランシス・ラカッサンが「探偵小説の神話学」で述べているように、その発展が強く都市と結びついているのである。この「ミステリと東京」は、こういう点を踏まえながら、推理小説の中に描き出された東京の今昔を具体的な作品ごとに丹念に拾い上げ、解説したものである。
一般の読者を対象としているため、作品のあらすじの紹介がかなりの比重を占めていて、評論というよりは読みもの風の印象が強いが、取り上げている作品はいずれも秀作なので、東京を舞台にしたミステリ名作ガイドとしても楽しめるだろう。

No.1 6点 小原庄助
(2020/01/20 09:38登録)
東京をなんらかのかたちで背景に持つミステリ小説五十数編が、この著者の独壇場だと言っていい東京論の視点から、論評されている。ミステリの謎の面白さと、東京の多彩な奥深さが、平明な文章で解き明かされるのを読むと、ミステリ小説というフィクションと東京という巨大な現実を、同時に楽しむことになる。読んだあと、知っているつもりの東京に改めて目を開かれるなら、目からうろこの東京本ともなるだろう。
江戸から東京まで、その歴史は深くて長く、幅は広い。関東大震災と東京大空襲という二度の壊滅から復興して現在に至り、三度目の壊滅はいつどのように訪れるか、さまざまな予測を前途に持つ巨大都市なのだから、影つまり知られざる闇の部分はどれほどかと、想像力を刺激してやまない。そして本書を読み進むと、東京そのものが、複雑に重層するたぐいまれなミステリであることに、必ずや気付く。
本書を読むほどに、自分の知らない東京が、目の前にあらわれる。一定の方向ないしはパターンにやや偏った東京かと思うが、とりあげられている小説がミステリだから、必然性を伴ってそうなるのだろう。そしてそれらの東京のいずれからも、得体の知れない怖さのようなものが、立ちのぼってくる。

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