死が目の前に スカット・ジョーダン弁護士 |
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作家 | ハロルド・Q・マスル |
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出版日 | 1964年01月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/10/25 06:05登録) (ネタバレなし) 「私」ことニューヨークの弁護士スカット・ジョーダンは、元学友の演劇プロデューサー、ジュシュ(ジュシュア)・ワイルドから相談を受けた。現在ブロードウェイでは新作ミュージカル『陽気な未亡人』が大ヒット中で、同作は少し前までジュシュのパートナーだった初老のプロデューサー、ニック(ニコラス)・クリールが単独で興業を仕切って利益を得ている。が、実はその台本はジュシュがまだクルールの共同経営者だったタイミングに外部の作家ウィラード・ソーンから持ち込まれたものらしく、それが証明できれば『陽気な未亡人』の収益の半分はジュシュのものになるはずだった。ジュシュの言い分に法律的な正当性を認めたジョーダンは公文書の訴状を持ってクルールの住居に向かうが、そこには当人は不在で謎の女性のみがいた。しかもその室内の奥には、射殺された死体があった。 1951年のアメリカ作品。スカット・ジョーダンシリーズの第三作目。 評者は順当にシリーズ順に読んでいるが、今回がたぶん一番、出来がいい&面白い。 序盤からの掴みのうまさもなかなかだが、殺人現場からいつのまにかいなくなった謎の女は何者か? という興味と同時に、台本が独占された経緯の調査&証明についても明快かつハイテンポにストーリーが進行し、まったくダレることがない。 さらにそうこうしていくうちに、事件はどんどん先のステップへと進展してゆく。 最後の真相については、ものの見事に意外な角度からのどんでん返しで、よくよく考えればシリーズの先行作でも似たような種類のサプライズを設けていた気もするが、たぶん今回の方が仕上げがウマイ気がする。 (なお石川喬司は「極楽の鬼」のなかで本作について「推理しようにも伏線などはありません」と言い切っており、確かに通常のフーダニットにもパズラーにもなってはいないが、最後のサプライズのための布石はちゃんと? 張ってあると思える。) とても面白かったけれど、今回でなんとなく、作者マスルの手癖は見えた気もする? 次作ではダマされないぞ。 登場人物連中が総じてくっきりしたキャラクターであり、特に年配の面々の爺さんばあさんたちの描写がよろしい。 1920年代から「ブロードウェイの天使」の異名のもとに、カネにがめつい一方で多くの才能を後見してきた老富豪ニール・アッシャーも、終盤になって出てきてやたら存在感のある芝居を見せる婆ちゃんデボラ・オーキン(クリールの秘書グラディスの伯母)もそれぞれステキ。特に後者はジョーダンに向けて傘を武器にしかける素振りで、アニメ版『空手バカ一代』の人気キャラ「傘ババア」を想起させた(実にどうでもいい)。 あと、作中の時代設定はそのまま1950年前後だろうけど、この時代はまたもアメリカが世界大戦の脅威におびえ始めた頃合いで、しかも今度は核戦争で人類滅亡だとペシミスティックになっている時節。その辺の空気は、メインゲストヒロインの美貌の人妻ヒルデガルドの慨嘆のセリフとかに滲んでいて、21世紀のいま読むと独特の寂寞感と哀感を抱いたりする。 ポケミスで200ページちょっとで3~4時間で読めちゃったけど、中身はしっかり濃かった。ほとんど8点という気分でこの評点。 ちなみに、シリーズ前作でいなくなった? かと思っていたジョーダンの有能な秘書、太った中年おばさんのキャシディがちゃんと職場に復帰している(出番はそんなに多くないが)。前作ではたまたま休暇でもとっていたのか? 特に言及はなかったけれど。 あらためて、期待以上に面白いな、このシリーズ。しばらくしたら、また次の作品を楽しむことにしよう。 |
No.1 | 6点 | nukkam | |
(2019/12/30 16:01登録) (ネタバレなしです) スカット・ジョーダンは弁護士ですがこれまでのシリーズ作品でその設定をあまり活かしてないのを作者が気にしたのか、1951年発表のシリーズ第3作の本書ではジョーダンが訴訟相手に召喚状を渡そうと工作する場面で始まります。普通は弁護士自らそんなことはしないのですが、読者だって普通を期待してはいないでしょう(これがきっかけで死体とご対面です)。さらに法廷場面も用意してありますがここでのジョーダンは被告として自己弁護するという、これまた普通の法廷ではありません。依頼人の利益のために奔走するどころか自らにふりかかった火の粉を払うのに右往左往のジョーダンを、日頃の恨みをはらさんとばかりにここぞと攻勢をかけてくる検察や警察ですが(ひどいな)、その中で中立公平にジョーダンを扱ってくれるジョン・ノーラ警部の頼もしいこと!ちょっとした手掛かりから推理して犯人のとてつもない秘密に気づくのはジョーダンですが、犯人逮捕の手柄はノーラのものに。でも今回はひとかたならぬ世話になっているのですから気持ちよくノーラに花を持たせましょうね(笑)。 |