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ミステリの祭典

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日曜日

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1970年03月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2022/03/29 08:25登録)
シムノン版「殺意」。
いや結構似ている。コートダジュールの宿屋の経営をがっちり握る妻ベルトが、「お見通し夫人」とでもいうべき「一本筋の通った悪妻」で、その夫でキッチン担当の主人公エミールはだらしない浮気者。エミールがふと思いついた妻殺し計画から、抑圧されて主体性をなくしているエミールにとっての、皮肉な「人間性回復」みたいなものが窺われるのが、面白いあたり。

もちろん、人殺しは悪いことだからね(苦笑)

エミールの愛人というか、セックスフレンドみたいなメイドのアダが、悪女か、というとそんなこともない。知能も若干遅れ気味のようだし、聾唖?が第一印象、

彼女は別の世界、森と獣の世界に属しており、並みの人間の心得ぬ事も知っているのではないかと疑われた。彼女が未来を予言したリ、魔法をかけたりできるとわかっても彼は驚きはしなかった

と「森と獣の世界」、人間の生活からの脱出を示しているかのような幻想に、エミールはとらわれる。まあもちろん、これただの空想に過ぎないとエミールもわかっている。そこらへんにシムノンならではの「リアル」がある。

「シムノンのミステリ」の一番のオリジナリティというのは、殺人という「プロセス」がただのプロセスではなくて、さまざまな願望や空想に満ちた「謎解き」以外の「割り切れない」部分から立ち上がるのを直視していることなんだろう。

No.1 6点 人並由真
(2019/11/01 13:44登録)
(ネタバレなし)
 コートダジュール。その年の5月のある日曜日。ホテル「ラ・パチッド荘」のオーナーかつ支配人である30歳前後の青年エミール・ファイヨールは、かねてより考えていた計画を実行に移そうとしていた。それは2年前からホテルの下働きで千恵遅れの娘アダと関係していたエミールが、その事実が露見しながらも冷え切った仮面夫婦の生活を続けている2歳年上の妻でホテル創設者の長女ベルトに対して行おうとする、ある決意であった。

 1959年の作品。妻殺しを計画する夫の物語で、シムノンのノンシリーズ作品としては比較的、主人公が若い方の設定だと思う。
 主人公エミールは元、大都市のホテルのコックで料理の腕は上々。ホテル商売も繁盛しているが、その胸中には少年時代から、マザーコンプレックスめいた屈折が存在。その思いが形を変えて今は、年上の妻ベルトとその実母の未亡人マダム・アルノーが自分の人生を束縛しているという妄執? 現実? にイライラしている。一方で半ば欲求、半ばなりゆきで情人になったアダに対しては真摯な愛情とか、妻ベルトを殺して彼女を正妻に迎えたいなどといったマトモな思いではなく、現状の日常の不満を解消する要素以上のものではない。
 あれこれ我が儘な人間だが、例によってその辺はシムノンらしく、確かに誰の心にもこういう面はあるよね、的な感覚に読者の思いを引き寄せながら、ストーリーを着実に進めていく。

 殺人計画ミステリとしての読みどころはキーワード「日曜日」にからめた、エミールのある周到な? プランの某ポイントだが、この辺はちょっとだけ例の谷崎潤一郎の『途上』的なティストもあるかもしれない? 

 高いテンションのなかで迎える結末はやや舌足らずな感もないではないが、終盤のある登場人物の内心での独白など、ああ、シムノンだな、という感じ。佳作~秀作。

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